ブルース・スプリングスティーンのスタジオ・アルバム18作目となる今作は、21世紀における彼の絶頂を反映する作品だ。ロック・ソウルのダイナマイトに加えて、アメリカ国民が抱える現実(国家の危機、個人の抱える困難、完璧な調和を求めての日々の努力)を扱い、哀愁を詳細に描く。そして、その歌からにじみ出る勝利者の強さ。『ハイ・ホープス』はスプリングスティーンの過去10年間を深く追憶する作品でもあり、ファースト・アルバムをリリースしてからのベスト・ライヴとベスト・スタジオ・レコーディングを収録し、その視線は鋭く前方に注がれている。カヴァー曲、最近のアウトテイク、リメイクされた2曲の古い名曲をまとめたこのアルバムは、彼がいつもセットリストを決めずに行っているコンサーの勢いと自由度を感じさせるし、それぞれに意義のある曲ばかりである。

『ハイ・ホープス』収録曲の多くは、“あの時の彼は何を考えてたんだ?”と思わせる楽曲群からセレクトされている。古くは2002年『ザ・ライジング』用にレコーディングされた未発表曲も収録され、これらの楽曲は部分的に新しくなって復活している。フラット・ロックの暴動「フランキー・フェル・イン・ラヴ」と、どん底からの便り「ダウン・イン・ザ・ホール」(「マイ・ホームタウン」の明るさに欠けた1曲)がどうしてボツとなったのか、信じられないほどだ。しかし、スプリングスティーンはこれらの楽曲を、現在のEストリート・ビッグ・バンドとともにフォーク/ソウル/ゴスペルをふんだんに投入して作り直している。また、バックグラウンドの合唱は、戦士の賛美歌「ヘヴンズ・ウォール」に最後の仕上げを施す。ギャングスターの集会「ハリーズ・プレイス」では、最近Eストリートに加わったトム・モレロが、今は亡きクラレンス・クレモンズによってレコーディングされていたボリュームあるサックス演奏に乗せて、チェーンソーのような激しいギターを披露。そして「ザ・ウォール」でオルガンを弾いているのは08年に亡くなったダニー・フェデリチで、スプリングスティーンのジャージー・バー・バンドの良き先輩のひとりへの鎮魂歌となっており、自分のバンドにおける途絶えることのないメンバーのつながりに対する信念が示されている。

スプリングスティーンは過去の2曲を見事に作り直している。1995年『ザ・ゴースト・オブ・トム・ジョード』からのアコースティック・タイトル・トラックと、99年のニューヨークシティ警察によるアマドゥ・ディアロ殺害事件について歌った「アメリカン・スキン(41ショッツ)」だ。モレロは以前、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンで「トム・ジョード」をエレクトリック演奏しており、スプリングスティーンは彼に「アメリカン〜」のヴァースを歌わせ、その怒りに緊張感を加えている。そして、モレロのソロは激しく哀愁を帯び、正義の復讐を誓うことを新たにする。スプリングスティーン自身、時事問題を扱う作詞家として、新しいヘッドライン(トレイヴォン・マーティン、国家安全保障局の監視、こちらを無感覚にさせるほどに起こっている学校での銃乱射事件)を取り上げ、作品の中で反響させる。

『ハイ・ホープス』はカヴァー曲で始まり、カヴァー曲で終わる。これは、スプリングスティーンのスタジオ・アルバムでは初めてのことだ。しかし、The Havalinasによる90年リリースの反逆フォークであるタイトル曲と最後に収録されているスーサイドのマントラ「ドリーム・ベイビー・ドリーム」は、使い古されたボクシング・グローブのようにスプリングスティーンと本作にマッチしている。前者でスプリングスティーンは、“助けをくれ/力をくれ/何も恐れることのない眠りをひと晩の間、ひとつの魂に与えてくれ”と無愛想に要求する。長い間そうしてきて、そうすることにもう疲れきったかのように。

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