煙たい男たち|Case14 石橋 凌

By RollingStone Japan 編集部
伝説のロックバンド、ARBのヴォーカリストにして希代の名優、石橋 凌。
自分らしさを貫くため、波瀾万丈の半生を送ってきた男の生き様とは。


煙草の煙をくゆらせながら、石橋がふいに声を出して笑った。思い出し笑いをしているのかと思ったら、満面の笑顔で言う。「煙草を吸えることがうれしくて」。最近は俳優業での喫煙シーンも減っていて、撮影現場で堂々と煙草を吸えるのが本当にうれしいそうだ。いつから吸っているんですか?とたずねると、「それを言うと捕まっちゃいますから」とニヤリと笑みを浮かべる。

石橋は福岡で生まれ育った。5人兄弟の末っ子で、兄たちは全員音楽好き。特にすぐ上の兄が、ザ・ビートルズやザ・ローリング・ストーンズ、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルなどのカバーバンドをやっていて、影響を受けたという。高校に入るとバンドを組み、地元のライヴハウス「照和」で活動を始めた。この頃にはすでにプロになろうと決めていたが、当時はプロのミュージシャンを目指す者は極々わずか。進路指導の教員にも強く反対された。しかし石橋の決意は固く、卒業した後は、ビルの窓ふきなどのさまざまなアルバイトをしながら、バンド活動に没頭するようになる。

プロとして上京するための登竜門だった「照和」で頭角を現していた石橋には、東京から何度も声がかかったという。「ただ、ソロで来ないか、という誘いだったんです。東京へはバンドで行きたかったので断っていたら、そのうちまったく声がかからなくなって」。その頃には、アルバイト先のイタリアンレストランのオーナーから、支店を任せてもいいという話もあった。バンドでプロを目指すか、レストランを任されるか。迷っている時に、福岡KBCというラジオ局の名物プロデューサーから「東京でARBというバンドが、ヴォーカルのオーディションをしている。受けてみろ」という電話をもらう。もし落ちたらレストランで働けばいい。そう思い、受けることにした。結果は見事合格。上京してプロとしての道を歩み始めることになる。

メジャーデビューを果たしたわけではなかったが、スカウトの目にとまるチャンスはすぐにやってきた。バンドに加入して1週間足らずで、渋谷公会堂で開かれたイベントに参加する。この時はただただ舞い上がり、本番中もステージの上で走り回っていただけで、ろくに歌えなかった。「僕らのステージ、どうでしたか?」と、同じライヴに出演した先輩にきいて、驚かれたという。興奮のあまり、自分がステージで何をしたか覚えていなかったのだ。もちろんヴォーカルが走りまわっているだけのバンドに、スカウトの声がかかるはずもなかった。

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