煙たい男たち|Case22 三上博史

By RollingStone Japan 編集部
役者は月のように照らしだされる存在。
多忙な役者人生が導いた演劇哲学を聞く。

取材場所は9月5日から始まる舞台『タンゴ・冬の終わりに』の稽古場。部屋に入ると、主演の三上がまんじりともせずひとり台本と向き合っている。張りつめた空気に包まれていて、この後取材をさせてもらえるのだろうかと心配になるほどだった。

時間ピッタリに、スタッフが三上に声をかけた。するとビックリ。話すと驚くほど気さくで、大きな口を開いてゲラゲラ笑うし、下世話な話にもつき合ってくれる。繊細なパブリックイメージと打って変わって、なんとも豪快な男だ。

90年代にはトレンディ・ドラマで一世を風靡した。端正な顔立ちをしているだけに、まるでモデルあがりのタレントのようだが、三上は奇才・寺山修司に見出されて演劇の世界に入った筋金入りの役者だ。いったいどんなきっかけで出会ったのだろうか?

「実家が商売をやっていて収入が不安定だったんだよね。だから将来は、一流会社の高給取りのサラリーマンになろうと思ってた。遊んでいるふりをして、実はしっかり勉強していて成績も良くて」

続きを要約すると、こうだ。三上は勉強をして良い高校に入った。社会に出るまでの間は、とにかくやりたいことは全部やってやろうと、さまざまなことにチャレンジする。ある時、変わり者の友人からホラー映画のオーディションがあるから受けてみようと話をもちかけられる。誘われるままにオーディションを受けて合格。それが泉 鏡花原作、寺山修司監督の『草迷宮』だったのだ。

オーディションに合格した当時の三上は、『ゴジラ』と『エクソシスト』しか知らないような映画音痴だった。寺山組は、美術に宇野亜喜良、助監督に相米慎二を抱え、コアで才能のある連中が集まっていた。飯にも誘われるようになるが、出てくるのはフェリーニやパゾリーニなど、当時の三上が知らない名前ばかり。メモをするのが恥ずかしいので必死に記憶し、名画座を駆けまわる日々を過ごした。

次第に演ずることに魅力を感じるようになり、寺山の真骨頂、劇団・天井桟敷への参加も希望するのだが、寺山から「お前は舞台には向いていない」と言われてしまう。映画だけに出ているうちに時間はどんどん過ぎていき、もともと安定志向の三上に、大きな疑問が湧いてきた。寺山の周りにいるような一流スタッフですら、「金がない、金がない」と言って、現場では皆で冷たい弁当を食べていたのだ。これでは埒が明かないのではと考え、映画界と距離を置くようになった。

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