煙たい男たち|Case23 遠藤憲一

By RollingStone Japan 編集部
多種多様な役を演じてもなお、もがき続ける。
自分と真っ向から向き合いながら役者として生きる男。


子供の頃、映画で役者がカッコよく煙草を吸うシーンに憧れていた。が、気がつけば、そんなふうに感じさせてくれる役者もだいぶ減ってしまった。それにしてもこの男、煙草を吸う姿がとにかく絵になる。カメラに目線を向けると、特徴的な目がギラリと光り、思わず見ているこちらの背筋がピンとしてしまう。まさに“男が憧れる男”と言っていい。開口いちばん、いつから煙草を吸っているんですか?と聞くと、「そんなの詳しくは言えないよ」とニヤリと笑う。「でも、一回も止めたことがないんだ。飯後、3本まで減らしたことはあるけど、すぐに元に戻った」。表情も鋭いが声もよく通る。少しふざけて歌も上手いんですか?と聞くと、「いや、めっきり音痴」と今度は少し照れながら笑った。

役者、遠藤憲一。映画、テレビ、広告で、彼の顔、声を耳にしない日はない。しかも、悪役からコミカルな役、普通のお父さん役までと、役の幅がとにかく広い。そんな遠藤が最新作『木屋町DARUMA』で挑んだのが、四肢を失った借金の取り立て屋、勝浦という役。遠藤自身、「作り手には楽しい作品だけど、観る側の人たちは完全に度外視しているよね。実際にでき上がったものを冷静に観たら、誰が観たがるんだろう?って(笑)。観て心地良くなったり、笑ったりする作品ではないからさ。でも役としてのテーマがあってね。それは“生き続ける”。どんなに見苦しかろうとカッコ悪かろうと、“とにかく生き続ける”をテーマに演じたんだ。それに気づいてくれたらうれしい」。では四肢のない借金取り立て屋の“とにかく生き続ける”という気持ちを演じる時、自分の人生のどの部分を重ねたのだろうか? 遠藤は「俺の場合は、役者をやり続けるってことだね」と答えてくれた。

遠藤は、もともと役者志望ではなかった。小学校では野球に夢中になった。品川区戸越銀座に住んでいたが、時々たまプラーザにある野球場に通っていた。プロ野球選手になるのが夢だった少年のお目当ては、そこでリトルリーグチームの練習を見ること。彼らは全員キレイなユニフォームを着て、レベルの高い野球をしていた。一方、遠藤の周りには野球好きがあまりいなかった。だが無理矢理メンバーを集め、アパッチ野球軍さながらのおんぼろ草野球チームを結成した。ある時、憧れのリトルリーグチームの監督に嘘をついて試合を申し込んだ。「ウチのチーム、すげえ強いから一度試合をしてくれよ」と。遠藤にだまされ、試合は実現したが、結果はボロカス。遠藤はピッチャーだったが、面白いように打たれ、逆に相手のチームからは一点も取ることができなかった。それでも野球好きは変わらず、中学では野球部に入部した。ただその中学校のなかでは、遠藤の野球のレベルは決して高くなく、プロになる夢があまりに遠く感じ、野球への興味も薄れていった。挫折した遠藤は、当時学区でいちばん低いレベルの高校を受験した。遠藤がちょっと懐かしそうに受験の時の話をしてくれた。「数学がいちばん苦手だったんだけど、びっくりするくらい入試問題が簡単で。今でも覚えてるのが“A君の家からB君の家まで25メートル。B君の家の5メートル手前に八百屋があります。A君の家と八百屋の距離は何メートルでしょう?”という問題。あまりにも簡単で引っかけかと思った(笑)。そんなレベルだったから、蓋を開けてみたら学校内では成績が良かった」

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