いささか風変わりなデビューアルバム『ユアーズ、ドリーミリー、』。本作の「アウタ・マイ・マインド」で、ダン・オーバックは歌う。“俺だってゲームのことがわかる年齢だ/でも、今の俺はボタンを押すことで正気を保ってるんだ”。文字通り、36歳のオーバックは、人生の1/3をモダンブルースデュオ、ザ・ブラック・キーズのシンガー兼ギタリスト兼ソングライターとして過ごしてきた。続く歌詞は、オーバックがなぜまた新しいバンドを結成しなければならなかったのかを教えてくれる。ゲームが妙な事態になった時、救ってくれるのは仕事だ。“俺は気がおかしくなっている”とサビで認める彼。“それでも上手く切り抜けることができた”。

『ユアーズ、ドリーミリー、』は、彼の本領が発揮された作品だ。キーボードが鳴り響く「プット・ア・フラワー・イン・ユア・ポケット」は、キング・クリムゾンがブラックスプロイテーションのサウンドトラックを書いたらこうなるだろうと思わせる楽曲。「コールド・コンパニオン」は乾いたギターとオーバックのラップふうの歌い方が特徴的な曲で、サビではイーグルスの「魔女のささやき」にひねりが加わったようなハーモニーが聴ける。

 本作の最も優れた曲はアルバム後半に登場する。荒涼としたR&B「チェインズ・オブ・ラヴ」は、サビのコーラスをマリアッチ・フローア・デ・トロアチェの女性シンガーが担当。「サーチング・ザ・ブルー」では、オーバックがこうした作品を作る原点である切迫感を表現する。“俺たちがやることで何か永遠に残るものはあるのか?”と歌う彼。録音ボタンを押さない限り、それはわからないだろう。

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