中川 敬、サードソロアルバム『にじむ残響、バザールの夢』リリースインタヴュー

By RollingStone Japan 編集部

─僕は、今回のアルバムタイトルにある“にじむ”っていうのは、そういうことなのかなって思ったんです。僕らが、あるいは先人たちが路上で発してきた声が、徐々に何か形として残りつつあるみたいなことを勝手にアルバムタイトルから読みこんでいて。

「その解釈も外れてはいない。去年出た『九月、東京の路上で』(ころから)っていう、関東大震災の際の朝鮮人・中国人大虐殺のことを具体的に事細かに書いた本があって。もちろんあの虐殺のことはある程度知ってるつもりでいたわけやけど、そこには名前のある一人ひとりがいたんやっていう風に迫ってくる作りのこの本を読んでると、自分の中で史実が記号化しててんなっていう……。たった90年前なんやなって。そこから近代史を自分に今一度引き寄せる作業が始まって、戦後すぐの時期の戦災孤児、浮浪児のことにぶち当たってね。『浮浪児1945‐戦争が生んだ子供たち』(新潮社)っていう本があって……」

─どんな本なんですか?

「1945年3月10日に東京大空襲があって、10万人以上が数時間のうちに焼け出された。学童疎開の時期やから、小学生は田舎に疎開してる。その子たちが東京に帰って来たら、家もないし、家族も友人もいない。一面焼け野原。数万人の孤児たちが、雨露をしのげる場所で仲間たちと助け合いながら生き抜くしかない状況になった。当時上野に、今も残ってる地下道があって、その地下道で溢れんばかりの浮浪児が生活することになった。まあ、この本は当時、そういう体験をした人たちの聞き取りインタヴューを軸に構成されてて。何より強烈に印象に残ったのは、戦災孤児たちの共通体験で、野坂昭如の『火垂るの墓』と同じ世界、親族や大人たちのあまりに冷たい対応やね。子供たちに対する大人の態度があまりにひどくて。8月15日の終戦までは『お前たちもお国のために頑張ってるんだな』とか言っておにぎりを持ってきてくれる大人たちがけっこういたりするのが、8月15日以降、自分が食うのも大変な時代に突入すると、子供たちは野良犬のような扱いにされていく。なんとか親戚の家とかに居候できても、いじめられまくる。例えば引き取られたのが農村やったら、朝の5時から夜の10時頃までひたすら馬車馬のように働かされる。当時は、子どもの多い時代。食事も、その子だけ違う場所で粗末なものを食わされたりとか。『火垂るの墓』が特例でもなんでもなくて、みんながみんな同じような体験をしてる。ある種の日本人の精神風土を形成してる大元に、戦中戦後のあの時代があるんじゃないかという気がしてね。今の日本の処方箋みたいなものが、戦後すぐの日本に隠されてるんじゃないか、とか。今回のアルバム・タイトルに使ってる“残響”っていう語彙は、そうした、歴史に記述されない、名前のある一人ひとりの歌や叫びやつぶやきや会話が、路上にシミのようにへばりついてる、そんなイメージの表象やね。アルバム・ジャケットは鶴橋やねんけど、まさに戦後最初に関西最大の闇市ができた場所でね。東京なら上野に近い感じ」

─そうですね。

「その鶴橋で、在特会系の連中がヘイトデモ(差別デモ)をやるわけ。俺にとっては十代の頃からの遊び場やった、在日の友人たちが多く住む街で。長い間、行ってなかったけど、期せずして、こんな理由で行きたくなかったんやけど、ヘイト街宣へのカウンターをするっていう形で、この街と再会することになった。“にじむ残響”っていうのは、そこから出てきた言葉」

─なるほど。自分が弾き語りライヴで歌ってきた好きな歌、そして上野の地下街→鶴橋みたいな繋がりから生まれたオリジナルソング。その2つがひとつのパッケージとなってアルバムができたんですね。

「今回収録した“ユー・メイ・ドリーム”やったり、RCサクセションの“トランジスタラジオ”やったり……そういう曲って俺の世代からすると、FMラジオからエアチェックしてカセットテープになんとか録音して、っていうヒット曲たちやね。多感な時期に擦り切れるほど聴いたカセットテープ。今作は、中川敬生誕半世紀、戦後70年、自伝的な形で音像が浮かび上がってきたアルバムとも言えるよね」



TAKASHI NAKAGAWA
中川 敬 ○ 1966年、兵庫県生まれ。ソウル・フラワー・ユニオン、ソウル・フラワー・モノノケ・サミットの唄、ギター、三線などを担当。ニューエスト・モデルを経て、93年、ソウル・フラワー・ユニオンを結成。2011年、初のソロアルバム『街道筋の着地しないブルース』をリリース。2015年10月7日には3枚目となるソロアルバム『にじむ残響、バザールの夢』をリリースした。
http://www.breast.co.jp/soulflower/special/nakagawa_solo3/

jk

にじむ残響、バザールの夢
BMtunes
発売中


Text by Joe Yokomizo

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