パンクは中国を変えるのか:音楽への規制の実態と市民の反応

By Yoshiaki Ogawa 2016/02月号 P52〜55 |
『ブルース・リー』という曲を唄うヘルシティ(Photographs by Yoshiaki Ogawa)
緊急ドキュメント/音楽への規制の実態と市民の反応

その日、中国全土から1万人以上のメタルファンが北京のマスターカードセンター(旧名・五棵松体育館)に集まった。メガデスの中華人民共和国での初公演のためだ。


大歓声の中、 ステージに登場したメンバーが、「ハンガー18」の演奏を始めると、観客のテンションは最高潮に達した。ステージ正面のモッシュピットは過激に揺れる。3年前の公演中止を経験している中華メタラーたち悲願の瞬間だ。
その興奮も束の間、 4曲目の「スキン・オー・マイ・ティース」に入ると、観客のヘドバンが止まった。呆然とステージを見つめるファンたち。デイヴ・ムスティンがマイクスタンドから離れて、ひたすらインストゥルメンタルで曲を演奏しているのだ。 スペシャルな演出だろうか。そうではなく、彼には歌える曲と歌えない曲があるようだ。 その後の 「ドーン・パトロール」 や、「ポイズン・ワズ・ア・キュア」も、メガデスはヴォーカル抜きで演奏を続けた。メンバー自身も明らかに不本意そうだ。
結局、 代表曲の「ホーリー・ウォーズ」や「アングリー・アゲイン」は演奏すらされない。
こんなライヴパフォーマンスになった理由は、観客である中国のファンたちのほうが、よく理解していた。当局の規制によるものだ。ラストの「ピース・セルズ」を歌い終わってステージを去る時に、デイヴは「大人しく帰ってくれることに感謝する。そうしたら、またここにもどって来れるから」と、ファンに呼びかけた。演奏時間も短く、不完全燃焼なライヴだったが、ファンは大したトラブルもなく散って行った。会場の周囲には、群衆警備名目の警察官たちが囲んでいるのだ。これが、10月6日、北京のメガデスのライヴで起こった事件のあらましである。

中国でライヴパフォーマンスをするアーチストは例外なく、中国文化省に過去のアルバムまで遡って歌詞を提出させられるそうだ。 そして、当日のセットリストも事前に申請しなければならない。その上で、公演の許可が検討されるのだ。 共産党の一党独裁である中国では、体制批判などの発言は処罰の対象となる。広く影響力のある海外ミュージシャンは特に目をつけられている。過去にはトラブルもあった。
2008年にビョークは上海公演で当局に提出した演奏予定にない曲「デクレア・インディペンデント」を歌い、チベットを連呼した。中国国内でチベットの独立運動はタブー中のタブーだ。結果、彼女は中国文化省から、拘束こそされなかったが、有罪が言い渡されている。そのとばっちりだろうか、翌2009年、オアシスは、十数年前にチベット解放コンサートへ参加したことを理由に、入国自体を拒否され、その中国初公演は中止に追い込まれた。
世界との文化交流を謳っている中国の文化省だが、そこに表現の自由は存在しないのだ。

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