グレイトフル・デッド 結成50年ライヴレポート:締めくくりが新たな始まりに

ザ・グレイトフル・デッドの50周年を飾った『Fare Thee Well』の驚くべき大成功は、どうにも説明のつきにくい出来事だった。Blair JacksonとDavid Fansによるデッドのオーラル・ヒストリー(口述史)『This Is All a Dream We Dreamed』には次のような記述がある。「グレイトフル・デッドは魅力的な巡礼地になった。文化自体が巡礼地になったのだ」。グレイトフル・デッドは、力強い曲、恍惚のアドリブ、ネジが外れたようなダンス、強いドラッグ、そして抗しがたいヴァイブのトータル・パッケージだった。このバンドには、独自の哲学の福音書まである。それは柔軟性に富み、影響力があり、他の神秘説と同じように、教典と実践のフリースタイル・ミックスで紡がれている。ファンが本当に楽しみ、また行ってみたいと思うユニークな場所だったのだ。

当然のように、この「ファイナル」公演が本当にすべての終わりだというわけではない。しばしの休憩を挟み、一部の人に苦々しいことかもしれないが、ボブ・ウェア、ミッキー・ハート、ビル・クルーツマンの3人は、敏腕ギタリストのポップスター、ジョン・メイヤーと「Dead & Company」としてのツアーを開始する(報道によれば、メイヤーは自分の責任をしっかり果たしているようだ)。他方で、フィル・レッシュ&フレンズは、ニューヨーク州ポート・チェスターのキャピトル・シアターでデッド寄りのライヴを引き続き行っていく。そして、マーケットがあたたまっているいま、未発表のライヴ音源を収録した80枚組CDコンピレーション『30 Trips Around the Sun』を始め、昔のデッドのライヴ盤のリリース予定も増える一方だ。

さらに驚いたことに、このバンドの物語はいまでも説得力十分で、ライターたちはいまでもその意味の解釈に魅せられている。JacksonとGansのオーラル・ヒストリーに加えて、ローリング・ストーン誌のデイヴィッド・ブラウンによるバイオグラフィ『So Many Roads: The Life and Times of the Grateful Dead』、ビル・クルーツマン自身による回想録『Deal』、Peter Richardsonによるバンドの”文化史”『No Simple Highway』、そしてある種の音楽ファンにとってのベッドサイド常備の大型聖書ともいえるイラストたっぷりの豪華本『The Complete Annotated Grateful Dead Lyrics』などが2015年に発売された。2016年の出版予定のなかには、Jesse Jarnowの『Heads: A Biography of Psychedelic America』がある。これは、デッドのコミュニティや信者を題材に、アメリカにおける神経薬物による啓蒙活動の歴史をたどるものだ。デッドは常に、音楽以上の存在だったのだ。

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Photo by Jay Blakesberg

Translation by Kuniaki Takahashi

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