ショーン・ペンが語る:麻薬王エル・チャポとの会談(後編)

クラーク・ケントがスーパーマンに変身するような派手な見世物の後、エル・チャポがテーブルに戻ってくる。気取らない態度だったが、その戦闘装備はそうではない。エスピノーザとエル・アルトのどちらかが通訳をする。私たちは文化の重要性について比較する。私たちは呑気に質問をする。雰囲気はそれとはほど遠いものになっていたが。しかし私は、彼を追い詰め世界が知りたがっているであろうことをすべて尋ねるまで、8日待たなくてはいけないことに苛立ちを感じる。私は紙とペンがないと裸でいるような気分になる。だから答えを覚えていられる質問しか尋ねない。パブロ・エスコバルを知っていたか? チャポは答える。「ああ、彼の家で一度会ったことがある。大きな家だった」彼は微笑む。母親にはよく会うのか? 「いつも会っている。あなたとは私の牧場で会いたいと思っていた。そうすれば私の母親に会えた。彼女は私よりも私のことをよく知っている。でもあることが持ち上がり、計画を変えなくてはならなかった」。私は、その牧場が再び権力の監視下に置かれるようになったという内部情報のことををほのめかしているのだと推測する。

数時間が過ぎ、私とエル・アルトは頷き合う。それは私と彼が同じ感覚を持っているということだ。エル・チャポの周りの兵士たちの中心人物たちが落ち着きを失っている。何か時計のようなものがカチカチと動いている。そのとき、すでに午前4時になっていたはずだ。エル・チャポは立ち上がり、私たちの訪問に感謝の言葉を述べると宴を締めくくる。私たちは、その夜の食事を作ってくれた家族のところに行く。家族は配膳台の後ろにうやうやしく立っていて、エル・チャポは、愛想よく一人一人の手を取ると、感謝の言葉をかける。そして私たちにも同じことをするように目で頼む。続いて私たちを連れて、先ほどケイトを連れて行ったバンガローに引き返し、私たちのバンガローとその隣の一軒の間の細くて暗い通路で、チャポは私の肩に手を回し、8日後に会うという要望を念押しする。「今ここで別れを言っておく」彼は言う。このとき、私は旅行者に特有の鼓腸のせいで小さく放屁してしまう(申し訳ない)。このせいで私は、ケイトをベッドに連れて行ったときに示したのと同じ彼の騎士道精神を経験する。彼は気がつかないふりをしてくれる。私たちはそのかすかなモヤを逃れ、バンガローに入った同僚のところに行く。そこにはベッドが2台とカウチが1台あった。その近くには衝立があり、その向こうの3台目のベッドにケイトが寝ているのが見える。エスピノーザは私たちが来る前に寝ていたというベッドに戻る。

私とエル・アルトが互いを見る番だ。彼は6フィート3インチあり、私より背が高い。彼は自分が迂闊にも5フィート3インチのカウチの近くにいることがわかっていた。私の身長は5フィート9インチで、キングサイズのベッドからほんの数インチの距離にいる。これがメキシコ流のこう着状態である。私たちは2人とも1日大変な旅をしてきた。そして夜通し飲んだテキーラの影響も多少受けている。私にわかっているのは、自分が短いカウチを取ることがあれば、それは銃口を向けられたときだということだけだ。私は交渉した。「聞いてくれ。君がこのカウチに寝る必要はない。このベッドは大きい。私たちは話しながら寄り添って寝られる」。エル・アルトは「僕がカウチで寝るよ」と、言った。ベッドに倒れこんだ瞬間、私たちはエル・チャポの車の一行が夜のジャングルへと走り去っていく音を聞いた。

Translation by Yoko Nagasaka

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