音楽史上最高のプログレ・ロック・アルバム50選

20. キング・クリムゾン『太陽と戦慄』(1973年)

キング・クリムゾンのギターの巨匠ロバート・フリップは、彼にとって4年間で3枚目となるアルバムによって、1969年のデビュー・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』と同じくらい力強く革新的な音楽のエネルギーをようやく取り戻すことができた。バンドにとっては5枚目となるこのアルバムは綿密な構成と狂気じみた実験を巧妙に混ぜ合わせており、まるでフリップが完全に憂うつな空間のなかで見えるかすかな光に圧倒された狂人について描いているかのようだ。結局、どの部分が幸運な偶然で作られ、どの一節が注意深く組み立てられたものであるかを見極めるのは難しい。カタカタ鳴るトレイやチャイムの鳴る音、鳥たちのさえずり、控えめなヴォーカルそしておもちゃのピエロの笑い声が、見事な音から悲惨な音までと変化に富んだ安っぽい雑音だらけのギターの音色やてんかん患者のビート、ヴァイオリンの音色と絡み合っているため、どこが最もインパクトが強い部分か判断するはさらに困難だ。by J.W.

19. PFM『友よ』(1972年)

プレミアータ・フォルネリーア・マルコーニ(PFM)による決定的なセカンド・アルバムによって、イタリアのプログレは国際的な注目を浴びることになった。同胞のバンコと同じく、今にも爆発しそうな表題曲と変形し続けるような曲「ほんの少しだけ(人生は川のようなもの)」に優雅なエッセンスをを加えるロマンティックな才能やマウロ・パガーニのフルートとヴァイオリンを駆使して、人気の高い英国のシンフォニック・ロックスタイルにアプローチした。イタリアでツアー中のエマーソン、レイク&パーマーに才能を見出され、PFMはELPのマンティコア・レコードと契約した。『友よ』にキング・クリムゾンのピーター・シンフィールドによる英語版の歌詞でリミックス編集と修正を加えたバージョンとして『幻の映像』がこのレーベルから1973年にリリースされた。(アルバムはビルボードのアルバム・チャートで180位に入り込んだ。)「PFMはアングロ・サクソン人だと偽るようなロック・ミュージックのスタイルでは絶対に演奏しなかった」と、ドラマーでヴォーカルのフランツ・ディ・チョッチョは『幻の映像』再販版のライナーノーツで述べた。「俺たちは自分たちの音楽スタイルとルーツをいつも守っていたんだ」。by R.R.

18. フランク・ザッパ&ザ・マザーズ・オブ・インヴェンション『ワン・サイズ・フィッツ・オール』(1975年)

フランク・ザッパは『ワン・サイズ・フィッツ・オール』をリリースする前、「あなたたちはこのアルバムにあわせて実際にダンスするかもね」とリポーター陣に誇らしげに話していた。このアルバムはもちろん(時々)ロックンロールを踊ることができるが、ザッパが今までに培ってきたジャズやプログレの基礎要素も詰まっている。例えば、間抜けな感じで時間が流れ、きしむようなキーボード(ジョージ・デュークによる演奏)、ロックではイレギュラーな楽器の使用(フレットレス・ギター、マリンバ、フルート、ヴィブラフォンなど)そして「『キャン』と彼女が言った(’Arf,’ she said)」というような斬新な歌詞などの特徴だ。「ポ・ジャマ・ピープル」のような荒っぽい即興演奏やきらめきながらガタガタ進むような曲「アンディ」はザッパのアートロック実験主義による最高傑作だ。一方でぶざまな進み方をする「インカ・ローズ」はザ・マザーズ・オブ・インヴェンションが誇る主要なギターソロのなかでも随一のソロが披露されている。未来のザッパで「スタント・ギタリスト」のスティーヴ・ヴァイは『ワン・サイズ・フィッツ・オール』を聴いたことが人生のターニングポイントになったと考えている。2011年ヴァイは「インカ・ローズ」を「空前の名作」と呼び、「この曲は俺に新しい生きる理由をくれた」と述べた。by K.G.

17. マイク・オールドフィールド『チューブラー・ベルズ』(1973年)

『チューブラー・ベルズ』の一連のオープニング曲は、映画『エクソシスト』の不吉なテーマ曲として有名であるが、このアルバムのひどく恐ろしい部分のほとんどはもっと後半に繰り広げられている。イングランドの19歳の神童マイク・オールドフィールドによってレコーディングが行われた、20分超にわたる2つのセクションは、若きLSD常用者の頭の中で構成され得るほとんどすべてのテーマに基づいた変奏曲を展開している。「俺たちはビートルズの“ルーシー・イン・ザ・スカイ・ウィズ・ダイアモンズ”といった美しい曲の類を作ろうとはせず、おそらく『チューブラー・ベルズ』だけでなく実際たくさんの音楽をドラッグなしで作ろうとしなかった」と、オールドフィールドは後にガーディアン紙で語った。最初のパート1は環境音楽のサウンドスケープやギター・リフ、「MC(司会者)」のヴィヴィアン・スタンシャルが、ボンゾ・ドッグ・ドー・ダー・バンドふうに一連の楽器を仰々しい嘘で紹介するセクション(「グロッケンシュピール!」や「2つの少し…曲がったギター」など)を入れている。パート2では、異なるアップビートのシンフォニック・ロックに乗せた酔っ払ってしゃがれた低いうめき声とうなり声が、最終的にアニメのポパイで広く使われた船乗りの歌として有名な「ザ・セイラーズ・ホーンパイプ」に変化し、オールドフィールドが完全に正気を失う。by R.F.

16. ジェントル・ジャイアント『オクトパス』(1972年)

実験主義者のジェントル・ジャイアントは、バンドにとって一時代の終わりであり新しい時代の始まりを意味する4枚目のアルバム『オクトパス』で、バロックの対位法によるハーモニーや中世の縦笛のフレーズ、ファンクのリズム、ハードロックのサビなどを取り込んだ奇妙な作曲法をマスターした。マルチプレイヤーであるフィル・シャルマンが参加した最初の作品で、非常にグルーヴィーなドラマー、ジョン・ウェザースにとってはプログレジャンルでのデビュー作でもあり、ジェントル・ジャイアントはあらゆる音楽的な手段を尽くしている(「ノッツ」での複雑なマドリガルのヴォーカル・パートを聴いてみてほしい)。それでも、マッドサイエンティストの彼らによる実験は、「パナージの到来」といった重要作品による加工されていない生のロックの威厳によってバランスがとれている。「このアルバムは、バンドがこの10年間の残りで目指したものや方向性の集大成だったと思う」と、フロントマンのデレク・シャルマンは再販版のフルアルバムのライナーノーツで述べた。by R.R.

Translation by Deluca Shizuka

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