ベックが語るボウイへの思い:「いつだって僕の目標だった」

『ロウ』も僕のお気に入りのひとつだ。クラウトロックやエレクトロニック・ミュージックを通過した新たな音楽が生まれていく様子そのものを描いたようなあのアルバムには、後のパンクにもつながる何かが宿っていると思う。数年前、僕は200人のミュージシャンと一緒に『サウンド・アンド・ヴィジョン』をカヴァーしたんだ。あんなにも大勢のミュージシャンを一度に扱ったことはなかったから大変だったけど、素晴らしい経験だった。あのパフォーマンスを彼がどう思ったのかは知らないけど、気分を害していなければいいんだけどね。彼はあらゆるものにすごく高い基準を要求するし、自分の曲のカヴァーを耳にするのはいつだってもどかしいからね。すごくいい出来になるか、目も当てられないひどいものになるか、そのどちらかなんだ。



実際に彼と話したことが何度かあるんだ。その時のことは今でもはっきりと覚えているよ。ものすごくウィットに富んでいて、信じられないほど様々なことに精通してた。絵に描いたような知識人で、後にも先にも彼のような人に会ったことはないよ。アートや音楽はもちろん、コミックや日本の寺院まで、本当にあらゆるトピックを網羅していたんだ。

僕は彼の曲のリミックスをいくつか手がけたことがあるんだけど、できることならもっとやりたかったし、彼とのコラボレーションを実現させたかった。僕らはメールでやりとりをしていたんだけど、形になりそうなアイディアも実際に生まれ始めていて、実現するのは時間の問題だと思っていたんだ。でも残念ながら、その夢は一生叶わなくなってしまった。僕が彼にない何かを持っているかどうかはわからないけど、憧れの存在と一緒に音楽を作ることはすべてのミュージシャンとっての夢だからね。そばにいるだけで刺激を受ける、彼はそういうクリエイティビティの塊のような存在だったんだ。


Translation by Masaaki Yoshida

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