ニュー・オーダー、ダンスロックへの回帰に成功した内部事情

徐々に打ち解けていくなかで、サムナーは『ミュージック・コンプリート』で進めている曲のいくつかを彼女に聴いてもらった。曲について非常に完成度が高いと彼女は感想を述べたが、サムナーはこれらの曲で歌ってくれるかどうかたずねた。「私は『あなたたちのヴォーカル・ビッチになるわ。あなたたちが望むなら何でもやります』と言ったの」とジャクソンは振り返る。

「俺たちは皆、ステージでの彼女を見て、彼女の声に感動したんだ」とサムナーは述べる。「彼女はコラボをするのに最高だったよ。とても優しいし、仕事がすごく速い。彼女の声は俺の声と良いバランスがとれていると思う」。

「ニュー・オーダーと一緒に歌うことは、18歳の時から願っていたことよ。でもそれがどんな感じか、素晴らしいってことを今は知っている」とジャクソンは話す。

ほかにニュー・オーダーの大ファンとして『ミュージック・コンプリート』に参加したのがブランドン・フラワーズだが、彼はバンドにユニークな借りがある。2001年発売のアルバム『ゲット・レディー』から初のシングルである「クリスタル」のミュージック・ビデオには、ザ・キラーズという架空バンドを撮った映像が使われていた。フラワーズと彼の仲間はこのビデオからバンド名をつけたのだ。

ニュー・オーダーとフラワーズは長年、仲の良い関係だった。この前の5月、サムナーはフラワーズのソロライヴにも参加し、ニュー・オーダーの「ビザール・ラヴ・トライアングル」を一緒に歌った。だから『ミュージック・コンプリート』の明るいクロージング曲「スーパーヒーテッド」でフラワーズが歌うことが明らかになった時、まったく驚くことではなかった。

「彼はバンド名の使用でまだ俺たちに借金がある」とモリスは冗談めいて言う。「彼は俺たちのアルバムで歌うことで返済しているよ」。

多くのゲスト・アーティストとのコラボレーションの経験すべてが、サムナーにインスピレーションを与えてきた。「新しい色を見つけたり、その色をパレットに載せたりするみたいで、ただ面白いんだ」と彼は話す。

サムナーとモリスがローリングストーン誌にこの話をしているのは、彼らが『ミュージック・コンプリート』の拡張盤のために曲に手を加えている最中だ。このデラックス・エディションのレコード盤には各曲の拡張バージョンが収められる予定だ。

「俺は「シンギュラリティ」をどう変えるか考えているところだから、この曲についてはまだわからない」とモリスは話す。モリスは編集を加えた拡張バージョンの曲のほうが好きなタイプなので、「ブルー・マンデイ」を7分半に維持するかどうかで、ニュー・オーダーのレーベルと言い争ったことを思い出す。「でも、アルバムではかなり短いように見える「ザ・ゲーム」は、最後に長くて壮大なギター・ソロが入っている。そのおかげでエレクトロの叙事詩みたいに変化して、まったく別物に感じられるんだ」。

彼らの話では、ニュー・オーダーは、あちこちでいくつかの減速帯に遭遇したにもかかわらず、まだ出発したばかりの旅路にいるような新鮮が気持ちだという。アルバムが発売された後、2015年11月から12月にかけて、彼らは英国とヨーロッパのツアーに出かけた。

彼らは止まる気配をいっさい見せないが、電子音響の音楽ジャンルであるミュジーク・コンクレートをもじったアルバムのタイトルは「『ミュージック・コンプリート』って終わりっていう意味?」という疑問を生じさせている。「俺たちは『これが最後のアルバムなのか?』と皆が考えるとは思っていなかった」とモリスは述べる。「そういう意味は考えていなかった。『ああ、あのいまいましいニュー・オーダーが新しいコンピレーション・アルバムを作ったのか』と言われるとも思わなかった。このアルバムにはいくつか異なる音楽スタイルがあるから、この言葉がぴったりだと、ただそう考えていた」。

「タイトルはいちばん最後につけたと思う」とサムナーは話す。「俺たちはアルバムを完成させて、ミュージックもコンプリートする。ただ、それがしっくりときたんだ」。

Translation by Shizuka De Luca

Tag:

RECOMMENDEDおすすめの記事


RELATED関連する記事

MOST VIEWED人気の記事

Current ISSUE