アルカが語る、ビョークとのコラボ、性の葛藤、衝撃的なニューアルバム

―具合的な例を挙げてもらえますか?

僕の好きなラッパーのひとり、バスタ・ライムスのリリックにはそういう部分があるね。彼は直接的になりすぎることなく、政府に対する不満や社会における問題をリリックにできるアーティストだ。そういうリリックはいろんな解釈ができるものなんだ。『エヴリバディ・ライズ』は、苦しい環境に身を置いている人々に人生の素晴らしさを伝え、勇気を与えることができる曲だ。メンフィスのラッパーのトミー・ライト・Ⅲとレディー・Bも僕のお気に入りだね。メンフィス産ヒップホップはトラックのプロダクションに遊び心と生っぽさがあって面白いし、俊敏でテクニカルなラップが実はとても深いテーマを扱っているんだ。リスナーがもっとそういう部分に目を向けるようになってくれるといいなって思うよ。

その一方で、音楽は簡単に口にできないようなことを表現する手段でもある。それは必ずしもリリックである必要はないんだ。僕の曲『ブローク・アップ』がまさにそうだ。あれはアナルセックスについての曲なんだけど、僕があの曲をライブでプレイするたびに、目の前の何千人ものオーディエンスが一斉に顔をしかめるんだ。オーディエンスを敵に回すかもしれないけれど、僕の実体験に基づいている曲である以上、それを曲げることはできない。今度はエロチシズムについてのボーカル曲を作ろうと思っているんだけど、必要だと感じたらどんなに過激になることも厭わないつもりだ。

良くも悪くも、ヒップホップはアメリカのポップ・ミュージック史上最も柔軟な音楽だ。すっかり停滞してしまっていたシーンに、ミッシー(・エリオット)が登場したときは本当に衝撃的だった。性、権力、愛、混沌、そういう彼女が取り上げるテーマは、アメリカに生きるすべての人が無意識のうちに向き合っている問題ばかりだ。声なき人々の声を届けること、それがヒップホップの最大の魅力だと思う。社会でタブーとされている様々なことに、真っ向からノーを突きつけるんだ。過激なリリックにばかり気をとられて、多くの人がそういうヒップホップの本質を見落としてしまっているのは残念なことだね。

―あなたのセクシュアリティが原因で、スタジオなどで不当な扱いを受けたことなどはありますか?

マッチョイズムが浸透する音楽業界ではよくあることなのかもしれない。この世界に足を踏み入れる以上、それが避けられないということを自覚しておく必要があると思う。でも少なくとも、僕が仕事をした相手で嫌悪感をあらわにするような人はいなかったよ。カニエと仕事をすることになった時、僕は何があってもただ仕事にだけ集中しようと自分に言い聞かせた。でも結果的に、スタジオで嫌な思いをさせられたことはなかった。僕がプロのミュージシャンとして一流の仕事をしてみせれば、僕がゲイであろうと何だろうと、誰も文句を言ったりしないんだよ。自分の才能が発揮できる場所では、僕は自分が犠牲者だと感じたことは一度もない。ヒップホップのコミュニティは、僕の近所に住んでる人たちよりもずっと寛容だよ。

Translation by Masaaki Yoshida

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