あなたは『Music for a New Society』をつらい経験だったと語っておられます。今回なぜ、そこに戻ることにしたのですか。
捨てがたい歌詞があってね。できあがった過程が好きな曲もある。それに、ヨーロッパの音楽祭のプロモーターから、『Fear』と『Music for a New Society』をやってくれないかという注文もあってね。これが依頼に応えるための1つのやり方でもある。この作品はたしかにとても苦しい経験だったけれど、今振り返って見れば、経験しておいて良かったと思っているよ。
オリジナル・アルバムは何がそんなに難しかったのですか。
プロとしてのプレッシャー、個人としてのプレッシャーが大きかったからだ。プロとしては、"今"何が起きているのかを、真正直にアルバムにしたいと考えて、”今”にとてもこだわった。それで”テープが回っていなければ関係ない”という自分流のルールができあがった。そうすると、クリエイティヴ・プロセスはすべてインプロヴィゼーションで行うことになる。途中で止まったり、編集したりしてはいけない。個人としては、このアルバムには、曲の登場人物の性格と、歌い手の表現方法に由来する閉所恐怖症なところがある。今回は、オリジナルの中であまりうまくできていないところを取り出して、新作の方でその瞬間を目立たせているんだ。
だから『M:FANS』には2つのバージョンの『If You Were Still Around』があるのですか。
そうだ。この曲には荘厳なところがあってね。オリジナル・アルバムでこの曲を演奏した時には、宗教的な感覚を帯びていたんだ。この歌詞には大きな力があると気がついた私は、曲にたくさんの余白を取るようにして歌詞を落ち着かせ、曲の残りが生まれてくるのを待たなくてはならなかった。オリジナル曲の余白箇所では、次にどうするかを見極めようと、私の脳みそがきしんでいるのが聞こえるようだよ。
ルー・リードが亡くなった1年後に、あなたは『If You Were Still Around』の再録音盤をリリースし、ビデオを彼に献(ささ)げています。これはなぜですか。
ただ、そうすべきだと感じたんだよ。ある種、我々の人間関係を遠まわしに参照していて、私にとって、やるべき要素がそろったということだ。改宗したとか、そういうことではないんだ。ある種の映し鏡だよ。
最後にルー・リードと話をしたのはいつですか。
亡くなる数週間前のことだ。彼にメールを送って、具合が良くなることを祈りますと伝えたんだ。そうそう、ちょうどその時私は、『星条旗』を冒とく的に変曲したことで逮捕された(イゴーリ・)ストラヴィンスキーのマグショットを見つけた。ボストン警察が逮捕したんだな。その写真をルーに送って、「キミはこれが問題だと思うかい」と書いておいたんだ。
どんな返事がありましたか。
ハハハ、だってさ。
Photo by Richard E. Aaron/Redferns ルーに初めて出会ったのは50年前のことですよね。あなたはかつて、ルーには壊れやすくて変わりやすいところがあると評しておられました。時が流れて、彼は変化しましたか。
どんな風に変わったんだろうねえ、わからないよ。私に言わせれば、そういうところがますます極端になっていったと思うがね。互いの悪い癖に互いがドンドン浸食されて、ずいぶん腹を立てたものだったよ。まあ、昔の話だ。
そんなことをお聞きしたのは、あなたが『M:FANS』に関する声明の中で、彼の死によってアルバム全体がひっくり返されることになったとおっしゃっていたからです。
それはその通りだ。我々にとってつねに重要だったのは、作品を作ることだったんだよ。でもこうなってしまったら、もうそんなことも考えられなくなるじゃないか。だから私は、なんてことだ、参ったなと思ったんだ。この作品ももはや秀でているとはいなくなった、このままではやっていけない、とね。
声明ではさらに、哀しみがやがて、出来事に対する怒りに変わっていったとされています。
そうだった。ホントに暗い気持ちになったんだよ。でも、こんなことはもう50年も前に同意していたことじゃないか、ということに気がついたんだ。この50年間、私は何を期待していたというんだ? 40年や45年はそのままで続いていたんだ。それがこんなに急に・・・これですべておしまいだという、おぼし召しだったんだろう。
ビデオの制作で癒やされましたか。
出来は良かったよ。そこには自分にとって大切なことが定義されている。敬意にあふれた作品になった。
まもなく、ルーと作った作品を演奏することになりますね。
そうだ。4月にパリで、『バナナ・アルバム』(『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコ』)の周年行事に出演する。若いアーティストや、フランスのアーティストが参加してくれる。『バナナ』と『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』から演奏するよ。