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パリ・ブリュッセルで起きたISISテロ後の欧州の生活

Aleksandar Hemon | 2016/05/15 11:00

| Photo by David Ramos/Getty Images |

ブリュッセルとパリで起きた連続テロを仕掛けたテロリストの狙いは、欧州とイスラム教徒の憎悪を刺激することだが、今までのところEUは、その戦略に対しほとんど対抗策を取っていない。

2016年3月22日、ブリュッセル連続テロ事件が起きたその日、私はベルリンからフランクフルト経由の飛行機でバーゼルに移動していた。恐らくそれは、ブリュッセル空港での爆発が起きた直後であったが、フランクフルトでは空港の手続きにも劇的な変化は見当たらず、セキュリティーの列が著しく長くなるということもなかった。そして、その日の午後にバーゼル空港に着陸した時も、いつもと違う様子は何もなかった。バーゼル空港は、正式名称を『ユーロエアポート・バーゼル=ミュールーズ空港(通称:ユーロエアポート)』と言い、フランスのミュールーズにありながらもスイスのバーゼル、ドイツのフライブルクにも近く、出入国審査を出て3国のどこにでも入ることができる国際空港としての役割を果たしている。ユーロエアポートでは、ベルギーが攻撃されたという兆候は見られなかった。そして、ヨーロッパ大陸で最も裕福な都市の1つであるバーゼル自体も、わずか300マイルしか離れていない場所で残虐な行為が起きたことを示唆する兆候は何もなかった。人々は静かに宝石の買物をしたり、あるいはネスプレッソをゆっくりと飲んでいて、非の打ち所のない路面電車は天国のように晴れ渡った通りを滑走していた。

1週間後、私はヴェネチアにいた。それはブリュッセル空港で自爆テロを起こした兄弟2人と共にいた"帽子の男"が、インターネット上や新聞の第一面に載り指名手配されていた頃だ。しかし、それにも関わらずサン・マルコ広場には観光客が集まり、セルフィーを撮るために自撮り棒を伸ばしていた。彼らの存在は、宝石のように美しい欧州社会は、このような群集こそが自爆テロ犯の理想であるという事実に無関心であるということを立証していた。もちろん人々は、それが出来なくなるまでこれまでの生活を続けるだろうが、それがバーゼルの場合のように、攻撃を受けたヨーロッパというものが、どこか別の場所にあるというような脆弱な考え方によって生じるものであることを、私はヴェネチアでも感じていた。

ブリュッセルで起きたテロ攻撃の本当の標的が、"価値観"であったと認識された気軽さは、その印象を強調するだけだった。トールビョルン・ヤーグラン欧州評議会事務総長は、「この同時多発テロは、欧州の価値観を標的にしたものだ」と間髪を入れずに答えた。また一方で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相はテロ攻撃後の声明の中で犯人の目星をつけ「今日ヨーロッパは、我々が欧州連合のメンバーとして信じている全ての価値観の敵に立ち向かっている」と述べた。

"価値観"の話題は、テロリストの暴力が無差別な蛮行ではなく、はっきりとした断固たる戦略によるものだという事実から目をそらしている。ISISの究極の目標は、欧州とイスラム教徒(ISISは彼らを代表していると主張する)の憎悪を刺激することであり、強く封印された血統(による、両者の関係性)は取り返しのつかないことになり、結果として"私たち"と"彼ら"との間に本質的な差別が生じる。ISISはそれによって生じる人種差別と反イスラム政策がより多くの人を彼らの進む方向に駆り立てることを望んでいる。ISISは、より強い怒りを持った新兵を必要としているのだ。ISISが仕留めようとしているのは中立ではないヨーロッパであり、そこは欧州が全ての武器と価値観を奮い起こし、最後の最後までISISと闘う戦場である。
Yuka Ueki

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