バンド初期のスピリットに立ち返ったウィーザー

Illustration by Michael Marsicano

4枚目のセルフタイトル・アルバムは、リヴァース・クオモの音楽への愛情に溢れた作品

ウィーザーの熱狂的ファンの心には、いつも『ピンカートン』(1996年の傑作セカンドアルバム)がある。リヴァース・クオモはこの作品で、自らが抱える恐怖、抱く幻想を吐露。アルバムの中で、日本人ティーンエイジャーからもらったファンレターの匂いをくんくんしたり、チェロ奏者によだれをだらだらしたりもする。このアルバムがセールス的に失敗だった原因について後期のウィーザーファンは『大人の世界では受け入れられなかったから』という神話めいた話を信じているらしいが、そんなことはない。そもそも作品の存在自体が、気づかれてなかったのだから。96年には、メジャーからセカンドアルバムをリリースしながら、大失敗に終わったバンドがいくつもいた。だがクオモにとって、この結果はかなりこたえたようだ。きっと彼は、映画『風と共に去りぬ』のスカーレット・オハラのごとく大空に向かって拳を振り上げ、誓ったに違いない。「神よ、見ていてください。二度とこんなみじめな思いはしませんから」と。

15年に渡り、クオモは『若さゆえの純粋さ』 をエサにファンを釣り上げてきた(実際に彼が若くて純粋だったのは3年程度だった)。そんな彼が率いるウィーザーのセルフタイトル・アルバム4枚目は、『ウインド・イン・アワ・セイル』『L.A.ガールス』『エンドレス・バマー』といった楽曲を収録し、ある意味、『ザ・ビーチ・ ボーイズのパロディ』とでもいうような作品となっている。オープニングの『カリフォルニア・キッズ』は波の音やカモメの鳴き声で始まる一曲で、ここで使用されるギターや鉄琴の音色は、ブライアン・ウィルソン作『素敵じゃないか』やウィーザー自身の『ピンク・トライアングル』といった名作を彷彿させる。どの曲もサビはキャッチーで勢いがある。クオモはこのアルパムが『ホワイト・アルバム』と呼ばれることを望んでいるようだが、これいかに?(噂によると『ホワイト・アルバム』なる作品は、すでにこの世に存在するらしいが)

本作に関し、「パンド初期のスピリットを復活させた作品」というクオモ。高い評価を得た2014年の前作『エヴリシング・ウィル・ビー・オールライト・イン・ジ・エンド』同様、ここでも90年代を思わせる表現が多用されている。『ドゥ・ユー・ワナ・ゲット・ハイ?』のサウンドは『ピンカートン』に収録された『ザ・グッド・ライフ』にそっくりで、歌詞もドラッグを吸い、カーテンを閉め、暗闇の中でバート・バカラックを聴き入るさまを連想させるなど、これまた90年代っぼい。

アルパムは、見事なアコースティック・バラード『エンドレス・バマー』で幕を閉じる(日本盤はポーナストラック『プロム・ナイト』も収録)。このメロディは、クオモが作ってきた楽曲の中でも最高に胸を打つものと言ってよいだろう。『自分が幽霊のように感じる時がある』と歌う彼は、ブライアン・ウィルソンに匹敵する哀愁を備えている。溢れんばかりの音楽への思いのため、いかに感情を排除しようとしてもあちらこちらに忍び込んでしまうようだ。



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Translation by Mariko Shimbori

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