『ワイルド・スタイル』から『8マイル』まで、傑作ヒップホップ映画20選

『ワイルドキャッツ』(1986年)

『デンジャラス・マインド/卒業の日まで』と『ギャングスターズ 明日へのタッチダウン』を組み合わせたような、フットボールをテーマとしたコメディ映画の本作には、主演を務めたゴールディ・ホーンのほか、本作で銀幕デビューを果たしたウェズリー・スナイプスとウディ・ハレルソンが出演している。またLL・クール・Jが脇役で出演している本作は、『ニュー・ジャック・シティ』におけるアイス・T、『ワイルド・スピード』におけるリュダクリス、そして押しも押されぬスターとなったウィル・スミスのように、ラッパーが映画界に進出するケースの先駆けとなった。またLL・クール・Jによるテーマ曲『フットボール・ラップ』での「フットボールはスポーツの王様 ダイアモンドの指輪よりも高価さ」というフレーズは、本作のキャッチコピーとして人々に記憶されている。

『Disorderlies / ファット・ボーイズの突撃ヘルパー』(1987年)

総体重500キロのヒップホップ・コメディ・グループ、ザ・ファット・ボーイズが主演を務めるこのコメディ映画で、プリンス・マーキー・ディー、クール・ロック・スキー、バフィー・ザ・ヒューマン・ビートボックスの3人は、大富豪の叔父を殺して遺産相続を企むギャンブル中毒の男性に雇われる。本作はザ・ファット・ボーイズの人気に拍車をかけ、同年夏にリリースしたザ・サーファリスのカヴァー『ワイプ・アウト』(バックトラックはザ・ビーチ・ボーイズが担当)の大ヒットをきっかけに、同曲を収録したアルバムはプラチナムレコードを記録した。

『ドゥ・ザ・ライト・シング』(1989年)

典型的なヒップホップ・ムービーではないものの、ベッドフォード=スタイベサント地区における人種間の軋轢を描いたスパイク・リーによる本作の根幹にあるものがヒップホップカルチャーであることは間違いない。「愛」「憎しみ」という相反する2つのリング(『狩人の夜』でのロバート・ミッチャムのタトゥーにちなんでいる)を身に付けたレディオ・ラヒーム(ビル・ナン)が、巨大なブームボックスでパブリック・エネミーの『ファイト・ザ・パワー』を爆音で流すシーンはその象徴だ。ラヒームが地元の警察官に殺されてしまうという本作のエンディングは、今日まで続く黒人の若者たちが受ける差別に対する強力なアンチテーゼである。

『ボーイズ’ン・ザ・フッド』(1991年)

ジョン・シングルトンが監督を務め、オスカー賞候補となった本作を、かつてイージー・Eは『放課後の特別課外授業』と評したが、まさに言い得て妙だ。本作での演技が大きく評価されたコンプトン育ちのアイス・キューブと比較すれば、ギャングがはびこる荒廃したクレンショー地区で生まれ育ったメインキャラクターを演じるには、クリーンなイメージのキューバ・グッディング・ジュニアでは役不足だったからだ。しかしイージー・Eのクラシック『ザ・ボーイズ’ン・ザ・フッド』にちなんで名付けられた本作における最も重要なメッセージは、ストリートに生きるすべてのキッズがキューブ演じるドゥボーイのようなドラッグ・ディーラーではないということだ。その多くはグッディングが演じるトレ・スタイルズのような、南ロサンゼルスでのタフな日常を生き抜こうともがく平凡な少年なのだ。

『ジュース』(1992年)

スパイク・リーの撮影技師だったアーネスト・R・ディッカーソンの初監督作品である本作には、「フッド・ムービー」の一言では括れない魅力がある。とりわけオマー・エップスが演じる様々な悪事に手を染めるハーレムのDJ、Qの存在感は圧倒的だ。本作にはアン・ヴォーグのシンディ・ヘロン、クイーン・ラティファ、ノーティ・バイ・ネイチャーのトリーチ、EPMD、そしてサミュエル・L・ジャクソン等がカメオ出演しているが、何よりも特筆すべきはトゥパック・シャクールが演じた映画史に残る悪役ビショップだ。そのキャラクターは『フー・ドゥー・ユー・ラヴ』におけるYG、『アイ・ガット・ザ・ジュース』でのミーク・ミルなど、演技に挑戦する現代のラッパーたちにとって、今でも大きなインスピレーションとなっている。

『CB4』&『Fear of a Black Hat』(1993年)

クリス・ロックは世界最高のコメディアンとして知られるようになる以前、『ニュー・ジャック・シティ』におけるプーキーや『サタデー・ナイト・ライブ』でのナット・X等、その演技が高く評価されたこともあったが、酷評されることも少なくなかった。(『SNL』のほとんどのエピソードがその好例だ)作品の出来というよりもアイディアが魅力の『CB4』の評価も大きく分かれたが、世界一のワルを自称する中産階級出身の冴えない3人組によるグループ(N.W.Aのパロディであり、ロックはイージー・Eのヘアスタイルまで再現している)による、クール・G・ラップ・アンド・DJポロの『トーク・ライク・セックス』のパロディである『スウェット・オブ・マイ・ボール』は、アル・ヤンコビックも真っ青の出来だ。

後に『Chapelle’s Show』で一躍有名になるラスティ・カンディエフが脚本から監督まで務め、極めて少ない予算で制作されたインディー映画『Fear of A Black Hut』は、Yo! MTV Raps期における『スパイナル・タップ』と評され、『CB4』以上のインパクトを残した。ギャングスタ・ラップ、ヴァニラ・アイス、P.M.ドーン、実利主義、そして検閲といった、時代を象徴するキーワードを網羅した本作は、ヒップホップとパロディの抜群の相性を証明してみせた。

Translation by Masaaki Yoshida

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