ゲーム理論で読み解くドナルド・トランプの戦略

研究者たちは、トランプの得意とするカウンターパンチ戦略をゲーム理論に基づいて分析した。1980年、政治学者のロバート・アクセルロッドは仲間の研究者たちを招き、互いにせめぎ合う中で協力した方が得か、裏切った方が利益を得られるかという『囚人のジレンマ(prisoner’s dilemma)』のコンピュータ・プログラムの競技会を行った。ゲームでは2人の囚人に対して、自白した場合は減刑するか免責するという条件を提示する。もし一方のみが自白した場合、自白した囚人は無罪放免となり、もう一方の囚人は懲役5年が言い渡される。両者が自白した場合、共に懲役4年が科される。どちらも自白せず黙秘した場合、両者は懲役2年となる、という基本ルールに則って進められる。このゲームが繰り返し行われる時、2人の囚人たちは毎回、相手を裏切るべきかかばうべきかの選択を迫られる。

このプログラム競技会を制したのは、『しっぺ返し(Tit for Tat)』戦略と呼ばれるわずか4行で書かれたプログラムだった。その戦略はとてもシンプルで、相手の囚人が自白して自分を売った場合、次回は自分も自白する。逆に相手が黙秘を貫いた時は、次回は自分も黙秘して相手をかばう。良い相手との協調の可能性を最大限にしつつ、自分を売る敵に対しては即座に報復する、という戦略で『しっぺ返し』プログラムは競技会を勝ち抜いた。

これをトランプの選挙戦略に置き換えてみると(Tit for Trump)、政治家、ジャーナリスト、世論調査員と相手が誰であれ、トランプは自分に好意的な発言をする者に対してはすぐさま褒め称え、逆に彼を中傷する者にはさらにすばやく反撃する。ネットメディアのバズフィード(BuzzFeed)に対しては「(メディアから)アンフェアな扱いを受けた時は、記者をとことん追い詰めてやる」と警告し、CNNに対しては共和党内の有力対立候補たちを引き合いに出し、「他の候補者たちは皆優秀な人々だと思う。彼らが私に従ってくれたら、私も彼らに従う」と述べている。

これまでの所、トランプのしっぺ返し戦略は功を奏しているようである。共謀な反撃者という彼のイメージは、共和党予備選の初期段階で対立候補を尻込みさせることとなった。共和党のその他の幹部たちもトランプからの報復を恐れるあまり、彼を面と向かって批判できないでいる。結果、対立候補だったリンジー・グラハム、ランド・ポール、ジェブ・ブッシュ、マルコ・ルビオ、テッド・クルーズがトランプからの誹謗中傷の嵐による『しっぺ返し』戦略にまんまとはまり、次々と脱落した結果、トランプのみが共和党候補に残ることとなった。

しかし、どの敵も今回の共和党候補のように簡単に退けられるとは限らない。人間はロボットのようにゲーム理論の同じ動きを繰り返す訳ではなく、しっぺ返しの戦略に対しても学習し、必ず対抗策を取ってくる。この点は、仮に彼が大統領になった場合にも危険なウィークポイントとなり得る。プーチンのようなやり手には、おだてられて有頂天になっている間にこっそりアメリカの利益を持っていかれる可能性もある。逆に、悪意を持ってアメリカを政治的あるいは軍事的な紛争に巻き込もうと目論む場合も、トランプを策略にはめて怒らせればよいだけである。

Translation by Smokva Tokyo

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