『アナザー・サイド』でボブ・ディランが世代の代弁者を降りた訳

その時レコーディングした『ミスター・タンブリン・マン』や『ママ・ユー・ビーン・オン・マイ・マインド(原題:Mama, You Been on My Mind)』も本作に収録されなかったものの、このアルバムは明らかにディラン自身や彼の曲作りのターニングポイントだったと言える。「"ディランらしくていいね"って思ったよ」と、ディランの友人でミュージシャンのトニー・グローバーは振り返る。「下心を持った連中の代弁者なんかでいるよりも、よっぽどいい。こっちの方がディランの才能を十分に発揮できる。ディランの詩的でシュールな表現はよかったよ」。

それが顕著に表れているのが、『スパニッシュ・ハーレム・インシデント(原題:Spanish Harlem Incident)』だった。曲の中でディランは、あるジプシーの少女に言っている。「そばへ来て、おまえのドカドカ鳴るドラムが聴こえる所まで連れて行っておくれ」。この曲のレコーディングが終わった時、ディランはスタジオにいた友人に「理解できたかい?」と尋ねた。友人が頷くと、ディランは「俺にはわからない」と答えたという。

アルバム中、唯一『自由の鐘(原題:Chimes of Freedom)』のみがかろうじてプロテスト・ソングと呼べる。この歌詞の内容は直接的ではなくより比喩的に表現されている。1964年初頭にディランは3人の友人たちと国中を車で旅したが、この曲はその頃に書かれたものである。旅の最中、ディランは3度ライブでプレイし、ニューオーリンズでパーティに出かけた。南部地方で巻き起こっていた変革の波に大きな影響を受けながらこの曲を完成させた。それでも『自由の鐘』は、(前作の)『時代は変る(原題:The Times They Are A-Changin’)』とは大きく異なる。

Translation by Smokva Tokyo

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