YouTube vs 米音楽業界:争いの内幕

「YouTubeは私のビジネスを崩壊させ、世界中で盗人を育てながら稼いでいる」 ──スティーヴ・ミラー

「Content IDプログラムでは、著作権のあるコンテンツの99.5%をカバーできている。これ以上に優れた著作権管理システムは他にない。他の誰も著作権管理のシステムなどに手をつけていない頃から10年近く、このシステム開発に費やしてきた」と、YouTubeのチーフ・ビジネス・オフィサーであるロバート・キンクルは胸を張る。

一方でエイゾフは、「YouTubeの言う99.5%では十分ではない」としている。エイゾフの試算によると、不正にアップされた動画の再生回数は1日あたり4800万回もある。つまり、残り0.5%の違法動画に対する手動での削除依頼には、依然として膨大な労力が必要とされる、ということである。

膨大なコンテンツ管理を民間企業に委託するアーティストもいる。クイーンは、音楽配信サービスを提供するBelieve Digital社に依頼し、40名体制で不正動画の削除依頼や課金手続きにあたっている。同社CEOのデニス・レイドゲイラリーは「我々は、不適切だと思うものはブロックし、有用なものには課金する。これは、以前は存在しなかった重要な収入源だ」と言う。中にはスティーヴ・ミラーのように「YouTubeは私のビジネスを崩壊させ、世界中で盗人を育てながら稼いでいる」と、あきらめてしまっているアーティストもいる。YouTube上には、ミラーの『グレイテストヒッツ1974〜1978(原題:Greatest Hits 1974-1978)』のフルアルバムなどが不正にアップされている。

エイゾフは、「YouTubeがやろうと思えばコンテンツを100%管理することは可能なはずだ」と指摘する。事実、ポルノ動画をブロックし、オリジナル・コンテンツの視聴に対し月額10ドルの課金を行うことができている。「テイラー・スウィフトの件にしても、無料公開できるものと有料コンテンツとをアーティスト側が選択可能にすべきだった」とエイゾフは述べている。彼はYouTubeと親会社のGoogleに対し、DMCA法改正を求める米議会へのロビー活動に一緒に参加することを提案している。しかしこれまでの所、両社はこの提案に乗る気はないようだ。フォーチュン誌には、『アーヴィング・エイゾフへ:YouTubeが変わる必要はありません。あなたが変わるべきです』という見出しの記事が掲載されている。

電子フロンティア財団(Electronic Frontier Foundation)の知的財産担当役員で、デジタル著作権管理を推進するコリーヌ・マクシェリーは次のようにコメントしている。「エイゾフさんは、近年状況が改善されてきているということを忘れているようです。これまで著作権所有者は、自分たちが享受したものに満足していないと思います。1997年であれば、アップロードされた音楽を削除させるためには裁判を起こす必要がありました」。

これに対してエイゾフも負けていない。「我々が生きているこの時代はGoogleが牛耳っている、と思っている人もいるようだ。彼らの政府への影響力は大きいのかもしれないが、ハードルが高そうだからといって闘いから逃げる訳にはいかない」。

Translation by Smokva Tokyo

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