ジョン・レノンの「キリストより有名」発言論争の真実

事前に準備された声明文を読むのではなく、レノンは矢継ぎ早に出される厳しい質問に勇敢に正面から答え、どうにか自分の考えを明確にしようとした。「僕は神に反対しているわけでもなければ、アンチ・キリストでも反宗教でもない。批判していたわけではないし、自分たちの方が優れているとか偉いなんて言っていない。イエス・キリストを人間や神として、または何か他のものに例えて自分たちと比較したわけでもない。たまたま友人と話をする中で、"ビートルズ"という単語を、自分から遠い存在として使った。つまり、他の人たちが僕らを"ビートルズ"と呼ぶような感覚だ。"今の若者には、キリストを含む他の何より、彼ら(ビートルズ)は大きな影響力を持っている"と言った。僕はそういう言い方をした。だけどそれは誤りだった」



ある記者は、甲高い声でこう言った。「10代の子があなたの発言を真似てこう言っています。"僕はイエス・キリストよりビートルズが好き"このことをどう思いますか?」

地雷を察知したレノンは一瞬沈黙し、慎重に言葉を選んだ。「そもそも僕は英国について話をしていたんだ。僕らは、キリストや宗教のことではなく若者のことを主軸に話をしていた。非難したり見下したりしようとしていた訳じゃない。確かに自分の言葉だったし、間違っていた。というか、間違って受け取られた。そして今こんなことになってしまった」

「では、謝罪するつもりはありますか?」と別の記者。

レノンはストレスと時差ボケで明らかに疲弊した様子で、早く会見を終わらせたがっていた。「僕が発言したと言われているようなことは言っていない。でも、言ったことについては本当に悪かった。馬鹿げた反宗教的な意図はなかった。僕が謝って満足するなら謝るよ。自分が何をしたのか、僕はいまだによく分かっていないんだ。何をしたのか説明しようとしたけど、謝ってほしいのなら、それで満足してくれるなら謝る。申し訳なかった」
深く悔いている様子のレノンの姿は、全米の怒りの業火のほとんどを鎮めた。WAQYジョッキーのチャールズとレイトンは、表向きには許可の問題があるとし、8月19日に予定していた大掛かりな"ビートルたき火"をキャンセルした。ラジオ局のKLUEによる公開たき火は8月13日テキサス州ロングビューで行われたが、翌日雷が局の送電塔を直撃し、放送機材は壊れ、ニュースディレクターが意識不明となった。聖なる介入かどうかはさておき、この事故は確かにレノンを果てしなく喜ばせた。

とは言えツアーは重苦しい空気に包まれ、17日間14か所、19回の神経がすり減るような公演が行われた。抗議活動の参加者は、「ビートルズは帰れ」、「ジョン・レノンよ、キリストはお前の罪を背負って死んだ」と書いた手作りの横断幕を揺らしながら、新たなコンサート会場に律儀に現れた。プリンスジョージズ郡のKKKメンバーは、メリーランド総司令に率いられ、8月15日にワシントンDCのコンサート会場外でデモを行ったが、コンサートへの影響はなかった。「白いシーツに身を包み、円すい型の帽子をかぶっていたのは結局6人だった。彼らはプラカードを持ってぶらぶら歩き回っていた」とビートルズのロードマネージャー、ニール・アスピノールは回想している。「全く大したことはなかった」

Translation by Cho Satoko

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