EDMよ永遠なれ スティーヴ・アオキの終わりなき挑戦

クロアチアでのショーを終えてラスベガスに戻ってきたばかりのアオキは、マクドナルド・ハイランズの郊外にある、11,000平米の広さを誇る自宅へ向かっていた。クリーミーホワイトの大理石を切り出した巨大なキッチンで彼を出迎えたのは、本人の指紋採取のために1時間半待ち続けていた公証人だった。「これは何に使われるんだ?」指をインクに浸しながら、アオキはアシスタントのエリザにそう尋ねる。確信がない様子の彼女は、おそらくアオキが共同経営者として名を連ねる、マンハッタンにあるレストランのアルコールライセンスの更新用ではないかと推測する。「インクをこぼさないでくれよ」アオキは公証人にそう注意する。「この大理石は高かったからな」高額品はそれだけではない。彼の肩越しには、バンクシー作のミッキー・マウスを飲み込んだ蛇の彫刻が飾られている。アオキがここに自宅を構えたのは、彼が頻繁にプレイしているヴェガス・ストリップからそう離れていないからだという。

この豪邸を250万ドルで購入したアオキは、改築費用としてにさらに300万ドルを注ぎ込んだという。中国茶専門バー(「俺は海外に行くたびに、何時間もかけていろんな種類のお茶をじっくりと試すんだ」)、『燃えよドラゴン』のクライマックスシーンへのトリビュートだという全面鏡張りのワードローブ(「ブルース・リーは俺のヒーローだ」)、階下に通じるチューブがトレッドミルから伸びる2階立てのジム、天井やミキシングコンソールを含むあらゆるものが白と鮮やかな青で統一されたホームスタジオ(「この青は俺の愛車のひとつ、Audi I8とまったく同じ色なんだ」)等、この豪邸におけるハイライトの枚挙には暇がない。DJセット向けのストレートなEDMトラックではなく、ユニークなアーティストたちとのコラボレーションが中心になる予定だという次回作『ネオン・フューチャー Part 3』の大半はここで制作されているという。コラボレーションのパートナーにはBlink-182、そしてグラミー賞を受賞したカントリーグループ、レディ・アンテベラムという意外な名前も含まれている。「彼らは素晴らしいヴォーカルパートを送ってくれたよ」彼はそう話す。「お互いのファンの架け橋となるような曲にするつもりさ」

自分は倹約家だと主張するアオキだが、70〜80年代にかけてスピードボート選手として活躍し、Benihanaの創業者である父親のロッキー青木の贅沢な嗜好性を、本人が多かれ少なかれ受け継いでいることは間違いない。その父親が2008年にガンでこの世を去った時、延命技術についてのスティーブの関心は急速に加速したという。過去にインタビューで「俺は永遠に生き続ける!」と豪語し、豪快なキャラクターで知られた父親も、病の前では無力な「ただの人間」にすぎないとスティーヴは悟ったのだった。病床の父親の姿について、彼はこう語る。「全身にチューブを刺した状態でありながら、父は俺の手を強く握ることができた。体は蝕まれていても、彼の脳は最後の最後まで必死に戦ってたんだ」

Translation by Masaaki Yoshida

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