スケートボードのオリンピック種目採用:アンチ・スポーツな若者たちの行き場はどうなる?

この流れを受け2010年ロブ・デューデックは、Xゲームズや他のコンテストとも異なるストリート・リーグ・スケートボーディングを立ち上げた。ストリート・リーグは、最近取り壊されたフィラデルフィアのラヴ・パークのようにアメリカのストリートを模したプラザスタイルでデザインされ、さらに個別のトリックを重視して瞬時にジャッジされる。これらの特徴を持つストリート・リーグは、ヴァート・ランプからメガ・ランプへと巨大化し、リアルなイーヴェル・クニーヴェル・ヴァイヴを実現するXゲームズとは対極に位置する。ストリート・リーグのパーク・デザインは、スケーターがたむろするリアルなストリートのスケーティングスポットを再現することで、ストリートで繰り返し練習して磨いたテクニックをそのまま発揮できるように工夫されている。技をひとつ決めるたびに仲間たちからの大きな喝采を浴びる。それが一週間の集大成となるのだ。しかしストリート・リーグにも盲点があった。コンテスト中にスケーターはポイントを稼ぐ必要があり、結果として難しいトリックの数を減らす傾向にある。プロはひとつのトリックを成功させなければならないため、その難易度は格段に上がる。従って勝つためには、すごい技を披露するだけでなく、それをコンスタントに成功させる必要がある。それを実現できる者が、ナイジャ・ヒューストン(記事執筆時21歳)のように歴史上最も稼ぐスケーターになれるのである。

ヒューストンは、このハイレベルをキープするゲームを代表するスケーターである。ストリート・リーグで彼は、バックサイド270からハンドレイルのノーズブラントなど難易度の高いトリックをいとも簡単に決めてみせる。困難な技をいかにもベーシックな技のように決めるヒューストンのスタイルは若者たちに衝撃を与え、スケートボードがさらに進化するきっかけとなった。難易度のとても高いヒューストンのトリックの数々は、若者たちのスキルレベルの判断基準となり、世代を追うごとに難易度は上がり続けている。しかもこれはスケートボードの他の側面にも影響を与えている。例えば、ヴァート・ランプからメガ・ランプへの発展。メガ・ランプは当初、ダニー・ウェイやボブ・バーンクイストなどのトップ・ヴァート・スケーターでなければ乗りこなせなかった。それが今やXゲームズの1カテゴリーとなっている。近い将来、"メガ"という形容詞すら取り払われ、何か別のすごいものが出てくるのだろう。

オリンピック種目に追加されたことに対する影響を考えてみよう。ストリート・リーグで披露されるナイジャ・ヒューストンの超ハイレベルのトリックを新たなスタンダードとして採り入れるスケーターたち。そこには、クリス・コール、ルアン・オリヴェイラ、クリス・ジョスリン、トミー・サンドヴァルらのビデオを観てインスパイアされたスケーターたちにしか理解できない感覚がある。スケーターたちが真に影響を受けるのは、トリック・セレクションやスポット・チョイスだけでなく、彼らの選ぶ音楽やウェア、普段のふるまいなど、トップ・スケーターたちの鋭いセンスである。それは言い換えればニュアンス的な関係で、若いアーティストが偉大なる先人をリスペクトするのに似ている。そこには偉大さへの敬意と同時にスタイルへのあこがれもある。

Translation by Smokva Tokyo

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