全米で増加中、授乳関係を持つカップル(ANR)の実態とは

アダルト・ナーシング・リレーションシップは、タブーと見なされることが多い。その証拠に扇情的な報道が多く、ニューヨーク・ポスト紙も、ANRカップルについて書いた記事に「WTF」(what the fuck?:「何だこれ?」という意味)というタグをつけている。メディアは、ANRの当事者を「変人」扱いし、コメンテーターもすぐにこの行為の「気持ち悪さ」を指摘する。ウェブサイトScary MommyにアップされたANRに関するコメントには、問題のカップルに対して批判的な意見が多い。なぜ彼らの話を世間で共有する必要があるのか分からないという人もいれば、ANRの当事者は「目立ちたがりで自己中心的な人物」なのではないかと推測する人までいる。また、変態趣味やフェティシズムの世界でさえ、ANRの当事者は孤立しているという。「非保守的なコミュニティのなかでさえ、理解してくれる人は少ない」とエリーは説明するが、理解してもらえなくても良いと思っている。「あなたの趣味は私とは違うけどまあいいかっていう大前提に辿り着きました」

ANRはタブーだという意見は、ANRの当事者やその意味に関する根本的な誤解から生まれたものである。なぜ、ANRが多くの人に「不快感」を与え、この行為を始めたのは子供の頃に性的虐待の被害を受けたからだろうと思わせるだろうか。それは、乳幼児の子育てを連想させる行為が性的なものとしてイメージされるからである。だが、ANRは幼児化フェチを連想させるような幼児行動性愛や幼児プレイではない。ANRは、ふたりの大人が同意の上で行うものであり、プラトニックな関係であれ、恋愛関係やBDSM関係であれどうであれ、彼らは自分たちの関係のなかで大人としてふるまっているのだ。乳房から乳を飲む側も乳幼児のふりをしたりはしないし、母乳を提供する側もパートナーを子供扱いすることはない。

では、彼らがこのような珍しく誤解されやすい関係に興味を持ったきっかけは何なのだろうか? 一番よくある説明は、この行為により他の方法では得られないような親密感をパートナーに与えることができるというものだ。この親近感とは、母親が子供と絆を築くために分泌するホルモン、特にオキシトシンによって促進される感情のことである。オキシトシンは、よく「愛情ホルモン」と呼ばれるもので、パートナーとの絆を深め、親密感を生み出すのに役立つホルモンだ。性的興奮や性的な行為によっても分泌されるが、授乳時の方が分泌量が多い。さらに、このホルモンが分泌されることで、ふたりともリラックス効果を得られるという。「1日の終わりにリラックスして眠りにつくのに良い方法」だとチェルシーは述べる。オキシトシンは扁桃体の活性化を抑えることで不安や悩みを和らげることができるなど、この説は科学的な研究によって裏付けられている部分もある。乳分泌によって生成されるホルモンのひとつであるプロラクチンも、母乳を出す女性のストレスを軽減させる効果があると証明されている。授乳中の女性は、アドレナリンの反応が穏やかになることが明らかになっているのだ。

Translation by Shizuka De Luca

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