映画『チリの闘い』:もうひとつの"9.11"

監督:パトリシオ・グスマン | / 配給:アイ・ヴィー・シー
By Yasuo Murao
(C)1975, 1976, 1978 Patricio Guzman
"9.11"といえば、ほとんどの人々がアメリカの同時多発テロを思い浮かべるだろう。

しかし、その28年前にアメリカがチリで起こしたもうひとつの"911"があった。その一部始終を記録して"史上最高のドキュメンタリー"と絶賛されたのが、パトリシオ・グスマン監督作『チリの闘い』だ。

東西冷戦下の1970年、世界で初めて選挙によって社会主義政権がチリに誕生。サルバドール・アジェンデが大統領に就任した。米国資本が所有していた鉱山を国有化して労働者の賃金を上げたり、大地主が支配する農地を改革したり、アジェンデの政策は労働者に強く支持されたが、保守派や富裕層は猛反発。国を挙げて右派(富裕層)と左派(労働者)が激しい闘争を繰り広げた。その際、右派を影で支援していたのがアメリカ政府だった。そして、73年9月11日、アメリカがシナリオを書いた軍事クーデターによってアジェンデ政権は劇的な終焉を迎える。


(C)1975, 1976, 1978 Patricio Guzman

グスマン監督と仲間達は、一台の16mmカメラとテープレコーダーを携えて町に飛び出して、激動するチリ社会を記録。それだけでも価値ある作品だが、グスマンは撮影した素材をできるだけ客観的な視点で編集して、『ブルジョワジーの叛乱』『クーデター』『民衆の力』の3部構成の作品にまとめあげた。右派と左派の手に汗握る攻防を描いた『ブルジョワジーの叛乱』。『クーデター』ではクーデターに向けてじわじわと高まっていく社会の緊張がスクリーンに張りつめている。国の経済を破綻させて政権を崩壊させるため、金を払ってストを起こさせたり、CIAを送り込んで極右組織を作ったりと裏工作に余念がないアメリカ。そうした右派の攻撃に対抗すべく、自分の手で新たな組織を作りアジェンデ政権を守ろうとする労働者たち。そんな労働者たちの姿を『民衆の力』で描くことで、グスマンはクーデター後に待ち受けていた軍事政権の悪夢ではなく、アジェンデ政権が見せてくれた希望の光を最後に提示する。

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