ブリティッシュ・インヴェイジョン:ビートルズから始まった英国ミュージシャンのアメリカ制覇

ヤードバーズが楽器使いのうまさで知られていたのに対し、売り出し中のロンドン出身バンド、ザ・キンクスとザ・フーは、ソングライティングの力で地位を確立していった。キンクスのレイ・デイヴィスは、インヴェイジョンから登場した最も多才な作曲家だったと言えるだろう。彼は、激しいハードロック(『ユー・リアリー・ガット・ミー』)や屈折した社会的主張(『ウェル・リスペクテッド・マン』)などに等しく才能を発揮した。レイの弟デイヴ・デイヴィスが熱狂的なリード・ギターを演奏するキンクスは、ブリティッシュ・ロックンロールの福音をアメリカに広めたふたつのバラエティ番組『シンディグ!』『ゴーゴー・フラバルー』で、テレビの前の視聴者におなじみだった。

フーはまさにアナーキー極まりないライヴで一躍シーンに躍り出た。その目玉はギターやドラム、アンプの破壊、そして現代の若者の気持ちを熱く語った曲だった。ギタリストでバンドの看板でもあるピート・タウンゼントのペンから、『マイ・ジェネレーション』『アイ・キャント・エクスプレイン』などの名曲が生まれた。スウィンギング・ロンドンでは絶大な影響力を誇ったフーだが、インヴェイジョンの終焉、67年後半に全米チャートの9位にまで上った『恋のマジック・アイ』まで、アメリカでのインパクトはあまり感じられなかった。もちろんこれはバンドにとって始まりにすぎず、続けて『トミー』『フーズ・ネクスト』などの画期的なアルバムを作り上げた。


ジョージィ・フェイム&ザ・ブルー・フレイムズ Val Wilmer/Redferns

マンフレッド・マン(『ドゥ・ワ・ディディ・ディディ』が64年に全英/全米チャート1位となった)、ジョージィ・フェイム&ザ・ブルー・フレイムズ(『イエ・イエ』)、ザ・ナッシュヴィル・ティーンズ(『タバコ・ロード』)、ザ・パラマウンツ(後に路線変更してプルコル・ハルムとなる、ホットなリズム&ブルースバンド)は、ブルージーなビートでロンドンを揺らし続けた。ロンドン郊外から出たザ・ゾンビーズというバンドは、その恐ろしい名前にもかかわらず、洗練されたポップ・シングルを何枚か出した(『シーズ・ノット・ゼア』『恋はノー・ノー・ノー』)。ロンドンの外―はるばるアイルランドのベルファスト―から来たもう一組の変な名前のバンドであるゼムは、『ヒア・カムズ・ザ・ナイト』『ミスティック・アイズ』でチャート入りした。ゼムのヴォーカルは、誰あろうヴァン・モリソンで、67年に『茶色の眼をした女の子』でソロに転向した時も、ヒット記録は続いた。そして、はるばるアメリカ西海岸からやって来てロンドンに定着した3人組ザ・ウォーカー・ブラザースは、ブリティッシュ・インヴェイジョン最大のバラードの中の2曲、『涙でさようなら』『太陽はもう輝かない』を録音した。


ザ・ゾンビーズ GAB Archive/Redferns

インヴェイジョンは概ねバンド中心の現象だったが、女性アーティストたちも単独でかなりの成功を収めた。ペトゥラ・クラーク、ダスティ・スプリングフィールド、マリアンヌ・フェイスフル、ルルの4人の名前がチャートに食い込んだことでよく知られている。明るく元気なペトゥラ・クラークは15曲連続でヒット・チャートに入り、うち2曲(『恋のダウンタウン』『マイ・ラヴ』)で1位の栄冠に輝いた。『ウィッシン・アンド・ホーピン』『この胸のときめきを』など、60年代半ばにメガ・ヒットを出したダスティ・スプリングフィールドのクールでソウルフルな歌声は、トランジスタ・ラジオからいつも流れていた。ルルは、60年代最大のヒット・シングルのひとつ『いつも心に太陽を』で、67年の全米チャートで5週連続1位に輝いた。ミック・ジャガーと交際していたフェイスフルは、ストーンズの『涙あふれて』をトーチソング風に歌いヒットさせた。彼女はまた、スウィンギング・ロンドンでも有名なブロンドのひとりだった。


ゼム Michael Ochs Archives/Getty Images

コンボ好きなイギリスでは男性ソロは稀だった。しかし、イアン・ウィットコムのド派手な『ユー・ターン・ミー・オン』、P・J・プロビーの『ニッキー・ホーキー』、ジョナサン・キングの宇宙開発競争を歌ったドリーミーなバラード『エヴリワンズ・ゴーン・トゥ・ザ・ムーン』など、特筆すべき何曲かのヒットがあった。そして、ディラン風のフォーク・シンガーからサイケデリックな吟遊詩人へ転身したドノヴァンの『サンシャイン・スーパーマン』は、66年に全米チャート1位になった。

Translation by Naoko Nozawa

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