連載|野村訓市が思い描くホテルの理想形:第二回 ハレラマ(インド・デリー)

By Kunichi Nomura 2016/10月号 P129〜0 |
ローリングストーン日本版2016年8月号掲載  連載| 野村訓市 stay.002 ハレラマ/デリーにある安宿街パハールガンジの様子(photo by McKay Savage)
時には一泊10ドルの安宿に、時には古都に鎮座する老舗の名宿に。ラグジュアリーな高層デザインホテルから、荒野にひっそりと構えるモーテルまで。無数の旅の実体験から生まれた、野村訓市が思い描くホテルの理想形。

連載:A Hotel with No Name/ 野村訓市 stay.002 ハレルマ(インド・デリー)

できる男は定宿というやつを持っているらしい。どこどこの街へ行くなら必ずここに泊まるとかだけではない、自分が住んでいる街にも、例えば仕事が忙しくなったり、ちょっと考え事をしたいという時に逃避できる場所。本ではよく見るが、現実的にはそんな奴あまりいない。そういや、小学生の頃に一人いたが。親と何の用だったかオークラだかニューオータニに行って飯を食った時のことだった。Kくんが一人パクパクと飯を食っている。小学生一人で!そして食い終わるとウェイターが来て、サインをした。そう、このホテルこそKくん一家の定宿で、飯もツケで食っていたのだ。できる男だ!メニューの中身すらまともに理解していなかった俺はそう思った。

大体、ホテルに泊まれるとなると、なるべくいろんな時に泊まりたいという貧乏根性が出てくるので、定宿を持つというのは難しいのだが、今以上にフラフラしていた20代の頃、そういえば俺にも定宿があった。しかも複数。選ぶ基準はいくつかあったが、どれも星なんか一つもない、ひたすら安い、それに尽きた。一泊数百円というのが出せる限界だったのだから。もちろんあまりにも疲れ果てている時にはエアコンつきの一泊900円くらいするホテルに泊まったこともあるが。とにかく安く、周りに安飯屋とトラベルエージェントがふんだんになけりゃならなかった。そして、何より大事だったのが伝言板。ボードの上に貼られているたくさんのメモ用紙やノートの切れ端に、上から下へと片っ端から目を通す。世界中のバックパッカーたちが仲間に残した伝言だの、チケットを安く売るだのという案内。その中に自分あてのメモを見つける。「クンイチ、俺はこれからリシュケシュの方に行く。2週間はそのあたりにいる」。日付を確認する。今から数日前の日付。ほぅ、あいつはあのあたりにいるのか。じゃあバスのチケットを明日にでも予約していけば2、3日以内にはあいつとはガンジス川のほとりで会えるわけだ。チャイでも飲んでゆっくりするか。
Edit by Hiroshi Kagiyama

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