ローリングストーン誌が選ぶ、2016年の知られざる名盤15枚

フェイルド・フラワーズ『フェイルド・フラワーズ』
(原題:Failed Flowers, ’Failed Flowers’)


2016年は暗いニュースが多かったが、インディー・ロック界にとっては実りの多い年だった(過去3年もそうだったが)。レヴェル・アップ、ヒューマン・パフォーマンス、サンフラワー・ビーン、ミツキ、ビッグ・シーフ、ホテリアー、ピティ・セックス等が話題を集める中、筆者の記憶にとりわけ強く残ったのは、ミシガン州アナーバー出身のフェイルド・フラワーズによる、全9曲18分という潔さを誇る本作だった。ギターヴォーカルのフレッド・トーマスは、60’sガレージロックのリバイバルバンド、サタデー・ルックス・グッド・トゥー・ミーの元メンバーだ。同じくガレージ路線ではあるものの、アイラ・カプランのセーター用クローゼットでレコーディングされたかのようなルーズでウォームなサウンドが特徴の本プロジェクトは、フライング・ナン、マックスウェルズ、C86等を思わせる。控えめに弾けてみせる『8AM』、甲高いハーモニーを聞かせる『コーク・フローツ』、日常生活において「四六時中付きまとう不安」を歌った『レディ・フォー・ザ・ブレイク』等に彼らの個性がよく表れている。ギターが教会のベルのように鳴り響く、ドライブにぴったりのハイライト曲『スーパーマーケット・シーン』で、ベースヴォーカルのアンナ・バーチは、未来に期待を寄せる若いカップルの思いをこう歌う。「大人になってまともにお金を稼げるようになったら、ふたりだけの場所を見つけられるはず」ショッピング・デイ・ルックス・グッド・トゥー・ミー(ショッピングも悪くない)。Jon Dolan


スティーヴ・ハケット『ザ・トータル・エクスペリエンス・ライヴ・イン・リヴァプール』
(原題:Steve Hackett, ’The Total Experience Live in Liverpool’)


ピーター・ガブリエルがジェネシスを脱退してから41年、彼がバンドに戻るつもりがないことは、ジェネシスのコアなファンたちの目にも明らかだろう。ギタリストのスティーヴ・ハケットはバンドを終わらせまいと孤軍奮闘を続けており、過去数年に渡って行われたジェネシス・リヴィジテッド・ツアーは大きな成功を収めた。その様子を収録したライブアルバム・シリーズの最終作にあたる本作には、ソロ作の代表曲『エース・オブ・ワンズ』『ア・タワー・ストラック・ダウン』等はもちろん、『アイル・オブ・プレンティ』『キャン・ユーティリティ・アンド・ザ・コーストライナーズ』『ゲット・エム・アウト・バイ・フライデー』等、70年代にジェネシスが残したマニア感涙の名曲群も収録されている。ガブリエルの代役を務めることは決して容易ではないに違いないが、フロントマンのナド・シルヴァンは自身の魅力を生かした素晴らしいパフォーマンスを披露している。本作はコアなジェネシスのファンをも納得させるはずだ。Andy Greene


ヘヴィ・メタル『LP』
(原題:Heavy Metal, ‘LP’)


31分という簡潔な本作は、パンクアルバムだと言っていいだろう。結成からわずか6回のリハーサルを経て、練習用スペースでレコーディングされたというベルリンの3人組よるデビュー作には、ガツンとくるギターサウンドさえあれば後は何でもいいというメンタリティがにじみ出ている。そのバンド名はググらせまいという彼らのマニフェストに違いないが、Bandcamp上で検索をかければ、全13曲中11曲が3分未満という、潔くも爆発的な本作を耳にすることができる。チープなキーボードはパンクのDIY精神を感じさせ、荒ぶるサックスは退屈な日々の憂さ晴らしをアートに求めた、かつてのデトロイトやクリーヴランドのキッズたちのメンタリティと共鳴し、冷たいシンセサウンドとダブ調のベースラインは、77年以降のポストパンクを彷彿とさせる。ぶっきらぼうなギターラインが印象的な最終曲『トータル・ブルシット』は、2016年という悲惨な12ヶ月に対する人々の怒りと失望を代弁する。「仕事はクソ マジで生産性ゼロ 信仰心なんてクソの役にも立ちゃしねぇ この世界はクソったれ」Joe Levy

Translation by Masaaki Yoshida

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