ローリングストーン誌が選ぶ、2016年の知られざる名盤15枚

テラス・マーティン『ヴェルヴェット・ポートレイツ』
(原題:Terrace Martin, ’Velvet Portraits’)


今作は典型的なプロデューサー・アルバムだ。それはマーク・ロンソンのような2000年以降のヒットメイカーよりも、マイケル・ジャクソンとタッグを組む以前の、ソウルでジャジーなサウンドを紡いでいた頃のクインシー・ジョーンズの作風にずっと近い。ケンドリック・ラマーの『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』への参加で知られるテラス・マーティンによる本作は、実力派のアーティストたち(ロバート・グラスパー、カマシ・ワシントン等)をゲストに迎えてはいるものの、あくまで核となるのはマーティンと腕利きのセッションミュージシャンたちによる現在のカリフォルニアサウンドであり、それはかつてポスト・バップとオーケストラを融合させてみせたデヴィッド・アクセルロッドを彷彿とさせる。飾り気のないブルース『ペイシェントリー・ウェイティング』から、アンクル・チャックとエモーションズ(『ベスト・オブ・マイ・ラヴ』で知られる彼女たちだ)によるデュエット曲、ヴォコーダーサウンドが印象的なGファンク『プッシュ』、スムースなチルアウトジャズ『バルデス・オフ・クレンショー』まで、マーティンと彼が信頼を寄せるミュージシャンたちによるユルくもゴージャスな本作は、リスナーを贅沢な音楽の旅へと連れ出してくれる。Mosi Reeves


Pinkshinyultrablast, 『グランドフェザード』
(原題:Pinkshinyultrablast, ‘Grandfeathered’)


荒ぶるドラム、ワイルドなフィードバックギター、そして紅一点のヴォーカリストのLyubov Solovevaの存在感が魅力のロシア発ノイズポップバンド、Pinkshinyultrablastのサウンドはリスナーを素敵な宝探しの旅へと誘うかのようだ。サイケデリックな『アイ・キャッチ・ユー・ナッピング』や、パンチの効いた『ザ・チェリー・ピット』等、本作はシューゲイズ譲りの強烈なファズギターで夢見心地なメロディを奏でる一方で、ピンポン・スタイルのベースラインやチャイムのようなギターリフには、彼らならではの遊び心がにじみ出ている。断崖絶壁に立たされたかのようなスリル感を伴う『Mölkky』や、きらびやかな『キディ・プール・ドリームス』では、一見穏やかな彼らが隠し持った牙をのぞかせる。Maura Johnston


フォニー・ピープル『イエスタディズ・トゥモロー』
(原題:Phony Ppl, ’Yesterday’s Tomorrow’)


筆者が彼らのことを知ったのは、つい先日コロンバス・サークルの地下鉄のホームにいた時のことだ。メンバーや音楽性の変化を重ねつつ、2011年以来精力的にツアーを続けているフューチャリスティックなR&Bを鳴らすブルックリンの5人組は、レギュラー出演しているブルーノートの深夜枠イベントのプロモーション目的で、その日駅の構内でパフォーマンスを行っていた。全盛期のリヴィング・カラーにガレージロックのエッジを足したかのような、ハードでタイトなファンクを耳にした筆者は思わず立ち止まり、ビロードのようにリッチな70年代のサウンドと『カヤ』期のボブ・マーリーを思わせる『ホワイ・アイ・ラヴ・ザ・ムーン』で完全に彼らの虜になった。フォニー・ピープルはこれまでにネット上で無数の作品を発表しているが、1月にリリースされた先述の『ムーン』を含む全15曲の今作には、モダンなポップスのソングライティング、生演奏によるヒップホップのグルーヴ、クラシックなR&Bのヴォーカルスタイル、そしてスティーリー・ダンを思わせるゴージャスなオーケストレーションといった彼らの魅力が存分に反映されている。ギタリストのイライジャ・ローク、ベーシストのバリ・ベース、ドラマーのマット・バイアス、キーボーディストのアジャ・グラント、そしてヴォーカリストのエルビー・スリーの5人は、これまでにセオフィラス・ロンドン、エリカ・バドゥ、ザ・ルーツ等と共演しているという。彼ら自身にスポットライトが当たる日はそう遠くないはずだ。David Fricke

Translation by Masaaki Yoshida

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