レスリング界の名実況ジム・ロスが語る、アメリカ向け新日本プロレス番組での復帰

By Kenny Herzog
レスリング界の名実況ジム・ロスは語り続ける

こうして少年時代に勤勉な労働観を養ったロスが、その後で名実況アナウンサーの地位を築き、そしてかつての仕事仲間の多くが定年を迎える今でも語り続けるのは不思議ではない。かつて顔面まひを伴ったベルまひを3度も患い、もうすぐ70代に差しかかろうとするロスが今も実況アナウンサーとしての道を進もうするのはいくつかの理由がある。


ジム・ロス(AXN提供)

ロスは2013年に突然WWEを去った。しかしその後もテレビ番組で実況を務めただけでなく全米規模のスポークン・ワード・ツアーで各地の会場をソールドアウトにした。またBBQブランドを立ち上げ、レスリング専門の人気ポッドキャスト番組で司会を務めた。さらに今年後半に自伝を出版する準備を進めている。この復活ぶりからは「グッドオール(Good Ol:頼もしい人物の意味)JR」という愛称で親しまれた、マンデーナイトRAWの名実況者という従来のイメージにとどまらない新しいジム・ロス像を印象づけようとする意気込みが感じ取れる。

ロスはWWEを去ったばかりの頃に「このまま引退してひっそりと人生を送るのか、先がはっきりと見えないながらもキャリアを再構築するのかという、2つの選択肢があった」と語ると、さらに話しを続けた。「プロレスリングの世界に不満があったわけでなければ、仕事に対する情熱を失ったわけでもなかった。ただ、その後の将来について明確な目標と計画が見えていなかった。それから誰かが自分に手引きをしてくれるわけでないこともわかった。とは言っても、慈善募金の番組やインターネット募金に頼る必要もなかった。やりたい事をやるには、すべて自分次第で決まるのだと悟った。これまでの3年間で良かったのは、自分が関わった仕事のすべてを楽しめたということ。仕事のために街から街へ移動するのは楽しめないが、着いた先の街を楽しむことはできる」

ロスは定期的に新日本プロレス番組向けの実況録音が行われるAXSのロサンゼルス・スタジオに出向いた時、リラックスして仕事に取り組めているという。その理由は過去の実況のように試合を実況するという役目と、番組中に団体やスポンサー商品の宣伝をする役目の両方をこなさないで済むからだそうだ。「レッスルキングダムが終わった後の予定すら知らない」と語るロスは気楽そうだ。「私が知っておくべき事は、モニターに映し出される出場者に関する情報と、彼らの試合をどう盛り上げながら伝えるかということだけ。主催団体のことよりも試合に重きを置いて語れば良い実況ができる。その日に行われるレスリング大会だけに集中して語ればいい。そこがこの仕事の素晴らしいところだ。アメリカのレスリングファンはこのようなスタイルの実況を今まで聞いたことがないはずだ」と言う。

ロスはスポーツ・エンターテインメント界で殿堂入りを果たし、ファンに好かれる個性を築き上げた。しかし彼が成した最大の功績はマスメディアやスポーツ・エンターテイメント界が起こしてきた、構造的転換とも言うべき大きな変化の波に流されず、幼い頃に親しんだお話し会で身に付けた語りにこだわり続けてきたことかもしれない。

「語る時は自分なりの哲学がある」と言う彼は「自分のやり方が間違っていたと自分で認めざるを得ないとわかるまで、自分のやり方を貫き通す性分でね。自分がもう笑顔を作れないことも、時には言葉を噛むことだって自覚している。それでも自分が実況を続けられる限りは、これからもやり続けていくよ」と力を込めて言った。



Translation by Mie Arimoto

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