ニール・ヤング、98年にREMと『アムビュランス・ブルース』を歌った映像を振り返る

1974年作『渚にて』に収録された同曲を、ヤングが14年ぶりに披露した夜(Photo by Jeff Kravitz/FilmMagic)

1998年のブリッジ・スクール・チャリティーコンサートで、ニール・ヤングがR.E.M.と共に『アムビュランス・ブルース』を14年振りに歌った時の映像を振り返る。

1974年、弱冠28歳にして『アムビュランス・ブルース』を書きあげたニール・ヤングは、その時点ですでに10年以上プロのミュージシャンとして経験を積んでおり、音楽に託すべき思いに満ちていた。「古き良きフォークが流れていたあの頃」と歌うヤングによるアコースティックギターのスライドプレイは、バート・ヤンシュの『ニードル・オブ・デス』にインスパイアされたものだ。「僕らがプレイした時、あの場所は魔法に包まれた / 雨の中でボートがゆっくり揺れていた / 時計の針が深夜0時を指した瞬間 / 僕らの革命が始まる」その歌詞が指しているのは、彼が脚光を浴びる以前に、トロントのリヴァーボート・コーヒー・ハウスで、ゴードン・ライトフットやジョニ・ミッチェルらと共に歌っていた日々のことだ。

ナバホ・ループ・トレイルからマザー・グースにまで言及する9分に渡る同曲について、ヤング自身「この曲の意味を説明するのは困難だ」と認めている。しかし同曲は、1974年作『渚にて」のフィナーレを飾るにふさわしい切なさと美しさを誇っている。悪名高い1974年のクロスビー、スティルス、ナッシュ・アンド・ヤングの再結成ツアー時に、ヤングは同曲を幾度となく披露している。メンバーが気づいていたかどうかは定かではないが、「お前はただ時間を無駄にしている」というフレーズは彼らに向けられたものだ。ヤングのマネージャーのエリオット・ロバーツは、慢心によって音楽への情熱を失い、グルーピーやドラッグに夢中になっていたクロスビーとスティルス、そしてナッシュの3人が「時間を浪費しているだけ」と非難していた。

ウォーターゲート事件の最中に生まれた同曲の最終ヴァースで、ヤングはCSNからリチャード・ニクソンにまで言及している。「あれほどの数の嘘をついた人間がかつていただろうか」彼はそう歌う。「やつは向き合う人の数だけストーリーをでっち上げる / 相手が誰かなんて気にもかけやしない / でも俺を騙すことはできない / 君が被害者にならないことを願ってる」

その後14年間にわたって封印されていた『アムビュランス・ブルース』のプレイをヤングに促したのは、1998年のブリッジ・スクール・チャリティー・コンサートに出演したR.E.M.だった。そのパフォーマンスは、同イベントの長い歴史におけるハイライトのひとつとなっている。またその魅力を再発見したヤングは、翌年に行われたソロのアコースティックツアーで同曲を20回近くプレイしている。『アムビュランス・ブルース』は2007年〜2008年に渡って開催された『クローム・ドリームス・Ⅱ』ツアーにおいても頻繁に披露され、至近では昨年パリで行われたフランスの億万長者、Édouard Carmignacのプライヴェートイベントでもプレイされたという。ドナルド・トランプの大統領就任以来、ヤングは一度もライブをしていないが、彼が現代の「次から次へとストーリーをでっち上げる底なしの嘘つき屋」に向けて同曲を歌う日は遠くないかもしれない。





Translation by Masaaki Yoshida

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