映画『嘘を愛する女』中江監督が語る、TSUTAYA発掘コンペ優勝と映画制作秘話

中江流映画づくりの極意は「ブレイクスルーをひたすら待つ」

ー常に緊張感走る組や、逆に笑いの耐えないムードの組など、監督にはさまざまなタイプがいらっしゃいますが、中江組はどのような感じでしたか?

ごく穏やかで、和気あいあいとした現場だったと思います。でも僕、実は自分で脚本を書いたあと、いつも「なんでこの程度のものしか書けないんだろう…」って後悔することが多いんです。この“つまらなさの壁”を「役者の人たち、どうにか突破してくれ」って思っちゃうんです。

ー役者に託すのですね。みなさんにはそのことを?

もちろん言えないです。だって「それは君が書くもんだろ?」って言われちゃうじゃないですか(笑)。台詞なんか10倍くらい想像して、その中から自分の中のベストを選びとって脚本に仕立てていますが、いざ現場で、10個のうち僕が落とした芝居を役者がやってきたとしたら、それはイマイチなんです。「それ以上のものを、僕は待ってるんですよ」と思って、ひたすら待機。

ーしかし、言葉にしないと演じる側には伝わらないのでは?

いや、僕から具体的に指示はしていません。役者自身が天窓を開いて「ポーン!」といい演技を繰り出してくるのを待つのが監督の役割じゃないかと。もちろんすべてのシーンが該当するわけではなく、クライマックスとか重要な場面においてです。とくに今回は、病室で昏睡し続ける高橋さんの横で、彼のすべてを知った長澤さんが語りかけるシーンがそうでした。

ー見ているこちらも「由加利、頑張れーーー」と拳を握りしめて応援してしまった印象的なシーンでした。具体的にはどのように待つのでしょうか?

「んー、もう一回」って言います。長澤さんはこちらでいろいろ指摘して火をつけてほしいタイプ、逆に高橋さんはその場に空気のように漂うタイプ。僕が想像した以上のものが二人から出てくるまで、ひたすら待ちました。15テイクくらいまで粘りましたよ。終電もなくなっちゃって、3テイクめくらいから誰もしゃべらなくなった(笑)。



ー逆に、監督の想像をアッサリ超えてきたうれしいシーンはありますか?


喧嘩して部屋を出て行ってしまった高橋さんを追いかけて、長澤さんがブランコに座るシーンです。僕はただ「隣に座る」と脚本に書いたのですが、長澤さんは高橋さんに背を向けるように逆に座って、二人が互い違いの画になったんです。驚きましたが新鮮でよかった。

ー長澤さんがほぼスッピンのナチュラルメイクで、公園の池のほとりで顔をくしゃくしゃにしながら高橋さんに笑って手を振るシーンにもドキッとしました。

あの顔、可愛くていいですよねー(嬉)。実はあのシーンも当初脚本には入っておらず、撮影当日にいきなり撮ることを決めて実行したんです。僕も気に入って劇中に2回も挿入しちゃいました。

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