世界を制した映画『ブラックパンサー』監督と主演のエモーショナルな物語

本作の大まかな内容について触れておく。ボーズマンが演じるティ・チャラは、地球上で最も豊かで先進的な文明を誇る、架空のアフリカ国家ワカンダの王だ。しかし彼には、超人的な能力で人々の平和を守るスーパーヒーロー、ブラックパンサーというもう一つの顔がある。マーベル・スタジオの社長ケヴィン・ファイギは、この役にはボーズマン以外考えられなかったと話す。そしてボーズマンは、そのオファーを二つ返事で承諾した。「電話をかけたその場で同意してくれたよ」。ファイギはそう話す。「ためらう様子はまったくなかったね」

現在41歳のボーズマンは、これまでにジャッキー・ロビンソン(『42~世界を変えた男~』)、ジェームス・ブラウン(『ジェームス・ブラウン~最高の魂(ソウル)を持つ男~』)、サーグッド・マーシャル(『マーシャル 法廷を変えた男』)など、アフリカン・アメリカンの偉人を数多く演じてきた。そのサーグッド・マーシャルにヴィブラニウム製クロウとステルス戦闘機を与えたかのようなブラックパンサーは、まさにボーズマンのためにあるようなキャラクターだ。その役をいつか演じたいという思いを、彼は2012年頃から日記にしたためていたという。「まさに理想のキャスティングだ」と監督のライアン・クーグラーはそう話す。「優れた運動神経、穏やかな性格、若々しさ、滲み出る知性、何から何までキャラクターのイメージにぴったりなんだ」

公開を数週間後に控え、ボーズマンはできるだけ人目につかないよう気を配りながら、ロサンゼルスのヒップスターたちに人気のカフェでペパーミントティーを飲んでいる。脚本家として身を立てようとニューヨークから移ってきたばかりの頃に、彼はよくこのカフェで執筆作業をしていたという。カーディガンからTシャツ、チノパン、靴下までを黒で統一し、一際目を引くのはスエードのヴァレンティノのスニーカー、そして赤とゴールドと緑のビーズを組み合わせたパン・アフリカンスタイルのネックレスだ。細身で背が高く、長くエレガントな指と拳はボクサーを思わせる(クーグラー曰く、ムードを高めるために2人はよく現場でスパーリングをしたという)。あらゆるものを疑うかのようなその目は、無口で神経質なイメージが演技によるものだけではないことを物語っている(「僕の目はごまかせないよ」とボーズマンはそう話す)。発言しようとするたびに、彼が慎重に言葉を選んでいることは明らかだ。「要は話が長いって言いたいんだろ!」彼は笑ってそう話す。

アクション映画のスターとしては、ボーズマンは例外的にユーモラスだ。「9割方ベジタリアン」であり、Yosef Ben-Jochannanやフランツ・ファノンといった急進的な黒人思想家たちをインスピレーションとして挙げる彼は、今でもオーディエンスの前に立つのは苦手だという。(「トークショーに出演?僕はパスだ」)それでも彼は、自分がある重大な役割を担おうとしていることを自覚している。「世の中には然るべきタイミングで浸透していく真実がある。人々が『ブラックパンサー』に熱狂しているのは、今まさにそれが起きようとしているからなんだ」

ハリウッドにおけるアフリカン・アメリカンを巡る状況が、今まさに大きく変わろうとしている。ボーズマンとジョーダン、アンジェラ・バセット、フォレスト・ウィテカーといった名優たちのみならず、『スター・ウォーズ』への出演でその名を知らしめたルピタ・ニョンゴ(ケニア出身)、『ウォーキング・デッド』に出演したダナイ・グリラ(ジンバブエ出身)、『ゲット・アウト』で知られるダニエル・カルーヤ(ウガンダからイギリスに移り住んだ両親を持つ)など、今作にはよりアフリカ大陸に近いルーツを持つ俳優が数多く出演している。黒人が中心となっているのはキャストだけではない。監督、脚本家、衣装デザイン、プロダクションデザイン、そしてエグゼクティブ・プロデューサーまで、本作ではそのすべてに黒人が起用されている。さらには黒人によるコミュニティが同作を上映する劇場を提供したり、貧しい子どもたちにチケットを無料配布するためのクラウドファンディングが実施されるなど、スクリーン外でも連帯意識の高まりを見せている。

Translated by Masaaki Yoshida

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