サッカーからヘディングをなくすべきか?脳の損傷を防止する規制ルールへの動き

ALEXANDER ZAITCHIK | 2018/07/21 09:00

| サンクトペテルブルクのスタジアムで行われたFIFAワールドカップ2018ロシア大会・予選グループBの試合中、ヴァヒド・アミリ(イラン)とノルディン・アムラバト(モロッコ)が衝突。その後ノルディン選手は、意識不明でピッチに横たわった (Photo by Mike Kireev/NurPhoto via Getty Images) |

サッカーにより深刻な脳の損傷を負う可能性がある、という複数の研究結果が出ている。しかし今のところ、国際サッカー連盟(FIFA)はほとんど対策を講じていない。ヘディングによって選手たちの頭部損傷や脳疾患のリスクを抑えるためにも、ルールを改定すべきなのか?

サッカーW杯2018ロシア大会・予選グループBの開幕戦の最中、モロッコ代表MFノルディン・アムラバトは、対戦相手のイラン代表の選手と頭同士を激しく打ちつけた後、ピッチへ倒れ込んだ。ピッチサイドへ運ばれてチームの医療スタッフによる検査を受けるまでの約1分以上、彼はグラウンドに横たわっていた。医療スタッフはアムラバト選手の顔を何度も平手打ちしたが、これは脳震盪の症状に対する典型的な確認方法のひとつだった。

世界中が注目するワールドカップの試合をテレビ観戦していた30億人の中のひとりに、Vincent Gouttebargeがいた。オランダ・リーグでアムラバトとチームメイトだった彼は現在、国際プロサッカー選手会(FIFPro)における医務部門の最高責任者を務めている。

「あのシーンを見て、私はとても失望した」とGouttebargeは言う。「医療スタッフの取った行動は、世界中へ向けて良くないメッセージを送ることとなった。脳震盪に対する適切なマネジメントを啓蒙する必要がある。4年前のブラジル大会でも全く同じような光景を目にした。それから何も変わっていないということだ」。

W杯2014リオ・デ・ジャネイロ大会の試合中、ドイツ代表のクリストフ・クラマーは激しい衝突により脳震盪を起こし、明らかにふらついていた。彼は自分が今どこにいるのかすら認識できない状態だった。「これは決勝戦ですか?」と彼はレフェリーに尋ねた。このクラマーの一件をきっかけに、FIFAと脳震盪プロトコルを巡る議論が巻き起こった。FIFAはその後、脳震盪に関する推奨ガイドラインを改訂した。

FIFAの広報担当者がローリングストーン誌に明らかにしたところによると、ワールドカップ2018年大会に際し、「全てのチーム・ドクターに対してワークショップを通じ、試合中に脳震盪が疑われた場合の適切な対処方法に関する詳細情報とガイドラインを周知した」という。しかし同大会は、それらのルールは単なる提言に過ぎず、多くの専門家に、FIFAは啓蒙や実行に対する関心を特に抱いていないと思わせる結果となった。明らかに脳震盪を起こしていたアムラバト選手は、モロッコ代表の医療スタッフによる平手打ちで意識を取り戻した。アムラバトは過去6時間の記憶がない状態だったが、運ばれた病院を退院してからわずか5日後、予選第2ラウンドのポルトガル戦に出場した。革製のヘルメットをかぶっていたが、医学的には何の効果もないものだった。「2014年(リオ・デ・ジャネイロ大会)がひとつのターニングポイントだったと思う。しかしFIFAは今なお軽視している」と、米プロサッカー界最高の得点王でESPNのアナリストでもあるテイラー・トゥウェルマンは言う。脳震盪が原因で早期引退を余儀なくされたトゥウェルマンは、スポーツにおける頭部損傷を減少させるための改革を呼びかける団体を設立した。

「非常に深刻な損傷を負い、ピッチ上で亡くなる場合もある。そんなことのないよう、現実的な脳震盪ポリシーを真剣に検討する必要がある」とトゥウェルマンは言う。「FIFAへの呼びかけは数年前に諦めた。彼らは意見交換にも応じようとしない。FIFAは、脳震盪の問題に耳を傾けられないのなら、慢性外傷性脳症(CTE)問題にも無関心に違いない」

衝撃による外傷を原因とした脳の疾患であるCTEに関して、FIFAは全くの沈黙を貫いてきた。FIFAのウェブサイトには、脳変性疾患に関してたった1か所の記述があるのみだ。アルツハイマー患者を支援するプロジェクトに関する2012年の記事で、「失われた個人の歴史を、わずかな間だけでも呼び起こす」として、患者のお気に入りのクラブからの記念品や写真を掲載している。

今後FIFAは、アメリカンフットボール、ボクシング、ホッケー、ラグビーなど衝撃を伴うスポーツとCTE等の後遺症を伴う脳変性疾患とを関連づける多くの科学論文に掲載される、損傷した脳の写真を目にするだろう。メイヨー・クリニックによる研究によると、衝撃を伴うスポーツを行っていたアスリートを死後に調査したところ、約3分の1にCTEの痕跡が見られたという。60歳以上の一般人に見られるCTEの割合は12%である。

Translated by Smokva Tokyo

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