ナイキ「Just Do It」広告塔、コリン・キャパニックとNFLの戦い

サイドラインで試合開始を待つコリン・キャパニック(2016年12月)(Photo by Michael Zagaris/San Francisco 49ers/Getty Images)

米ナイキは、「Just Do It」の30周年を記念する広告キャンペーンの顔として、NFLのサンフランシスコ・フォーティナイナーズ(48ers)の元クォーターバック、コリン・キャパニックを起用した。キャパニックは、人種差別に抗議するため国歌斉唱の際に片膝をついたことで、全米で「国家への冒涜」と大問題に発展した。なぜナイキは広告塔に起用したのか。より深刻化する“キャパニック問題”、NFLの内情と世論の動きを考察する。

身長193cmのコリン・キャパニック。タッチダウン/被インターセプト率はNFL史上最高レベルの記録を持ち、2018年11月にようやく31歳を迎える。伝えられるところによるとキャパニックの体調は万全だという。無口だが米国で最も注目される人権活動家のひとりとしての動向が目立ち、今はナイキの広告塔となったキャパニック。彼自身はクォーターバック(QB)として現役選手を続けたいと望んでいる。

サンフランシスコ・フォーティナイナーズ(49ers)で6シーズンを過ごし、あとわずかのところでスーパーボウルのタイトルを逃してきたキャパニックだが、彼のプロフットボーラーとしてのキャリアは終わりを迎えたように思われている。その理由は明らかだ。キャパニックがサンディエゴでのプレシーズンマッチ開始前の国家斉唱中に、サイドラインで初めて片膝をついたポーズを取ってから2018年8月末で約2年が経つ。それぞれにフランチャイズオーナーとゼネラルマネジャーのいるNFL加盟の32チームのいずれもが、過去2回のオフシーズン中にキャパニックへ契約のオファーを出さなかったのは、NFLとしては単なる偶然だと思わせたいようだ。さらに、2018年秋のオフシーズンにも彼に対するオファーはなさそうだ。この状況は恐らく、NFLコミッショナーのロジャー・グッデルが人種平等問題に関する広報活動への対応に追われることとなっている唯一の理由だろう。NFLは、混乱を収拾できたであろう唯一の手段を拒絶してしまったのだ。キャパニックに仕事を与えるか、少なくとも公平に現実的なチャンスを与えるべきだった。

プレイヤーがリーグのオーナー連中へ直接的に意思表示した事例がある。2018年4月にニューヨーク・タイムズ紙は、2017年10月に行われた密室会議の音声を公開した。キャパニックの49ers時代のチームメイトで、キャパニックと共に最初に片膝つきポーズを取ったセーフティのエリック・リードが、チームオーナーたちに向かって「“コリンの行動を支持する”と前向きな行動を取ったオーナーは誰もいなかった。我々はコリンを米国社会の最大の敵に仕立て上げ、彼は今なお仕事にあぶれている」と発言した。フィラデルフィア・イーグルスのディフェンシブエンドで白人のクリス・ロングは同会議で、「もし彼がロースター(選手登録名簿)に入れば、全てのネガティブな面や対立をポジティブに変えられるだろう」と述べている。しかし、キャパニックのロースター登録を検討していたチームのオーナーですら、会議中も会議後も選手たちの発言に反応しなかった。キャパニック問題を無視し続けることでリーグは、トランプ大統領らも呼応し、QBキャパニックを社会ののけ者に仕立てた経緯を正当化してきた。

Translated by Smokva Tokyo

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