「愛」と「執着」は表裏一体、安田顕が映画『愛しのアイリーン』に衝撃を受けた理由

─そうした“醜さ”の中でも、安田さんが特に衝撃的だったのは?

安田:岩男が、アイリーンに万札を投げながら「(これで)おまんごさせろ!」というシーンですかね。もう、人としてあり得ないし、自分の中にそんなことをする人格があるなんて認めたくないのだけど、でもきっと、どこかで自分と地続きの感情なのかと思ったら本当にショックでした。

「愛だから(愛のあるセックスをするから)結婚、金だから(金のためにセックスするから)売春」というアイリーンに対し、「愛だけで結婚はできねえ」という岩男のセリフにも考えさせられました。多額のお金を払ってアイリーンを“娶った”岩男は、結婚を「合法的な売春」と考えているのではないか。そもそも、金品のやり取りで始まった彼らの夫婦生活は、どこまでが「売春」でどこからが「結婚」なのか……。

安田:「お金」をめぐって、人の感情がいろいろと変化していくのもこの映画の肝ですよね。フィリピンで、岩男がアイリーンのお母さんにお金を渡したときの、彼女の表情も「真実」だし、いざ別れのときになって、娘が日本へ嫁ぐ悲しさに涙を流す時の表情も「真実」。それを観ていた仲介役(田中要次)の、「どんな国でもどんな環境でも、親が子を思う気持ちは変わらない」というセリフも、こんな歪んだ結婚システムの片棒を担ぐ身でありながら「真実」じゃないですか(笑)。

─確かに(笑)。それと、この映画を観ながら「愛とは一体なんだろう?」とも考えました。岩男のお母さんが、岩男に執着するのは「愛」と呼べるものなのでしょうか。

安田:確かに「愛」ではなく「執着」に近いところもあったし、岩男に対して「所有物」という気持ちも大きかったのかもしれないです。

これは個人的な話なのですが、先日母が、北海道のイベントを見に来てくれたんです。決して体は健康ではないですし、以前のように立ったり歩いたりできないのに、わざわざ田舎から何時間もかけて札幌まで。そんな状態になってまで、まだ息子の舞台を観たいのか……と思って感動したんです。母親の愛ってすごいなと。岩男のオナニーを覗く母親はどうかと思うけど(笑)、根底にあるものは同じなのかなあ。

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