阿部サダヲと三木監督が語る、いまこの時代にロック・コメディを作る理由

──阿部さんは、シンを演じていて大変だったことは何ですか?

阿部:とにかく、それぞれのシーンで様々な役者が出てきて色んな「笑い」の取り方をするから、僕はツッコミ役もボケ役もやらなきゃいけなくて大変でした。「演じる」ということの温度差も、役者によって全然違うから。そこを把握しながら「笑い」を取っていくのは、楽しいのと同時に難しかったです。ちょっと音楽フェスっぽかったかな。「このバンドのノリはこんな感じか」とか、アクトに合わせてこちらの受け止め方も変えていくのとか。

──ああ、なるほど。

阿部:相手役である役者によっては、同じセリフでも声色とか変えてぶつかってくる人とかもいるから(笑)、それに合わせて自分を変化させたり、「次はこうやって(セリフを)返してやろう」とか考えるのがとにかく楽しかったです。三木監督の現場は、程よい緊張感が常に流れているんですよね。

──本当にセッションみたいだったんですね。

三木:素人のおばあちゃんまで出てくるからね(笑)。そのリズム感を掴むのは至難の技だったと思う。

阿部:自分が何の映画に出ているのか分からないまま、おばあちゃんたちにはメチャクチャなセリフを言ってもらいましたからね(笑)。

三木:あのシーン、カナダ(第22回ファンタジア国際映画祭)では大ウケだったんだよ。ドカドカ笑いが起きてた。

──ヒロインを務めた吉岡里帆さんはどんな印象でしたか?

三木:目の前で起きている現象に対して、とりあえず何らかのリアクションは取らなきゃいけないという過酷な現場だったと思うんですが、そこにぶつかっていくことに対して、何のためらいもない人なんだなと感心しました。条件付きで演技をしないところに「役者魂」を感じたし、一緒にやっていてとても素敵でした。肝が座っているというか。

阿部:そう、度胸の良さですよね。ちゃんとかっこ悪くなれるというか。女優さんの中には、極端に変な顔や表情をしなければならない現場が嫌いな人もいると思うんですけど、そういうのが一切ないんですよ。部屋の中でゴロゴロ転がるシーンとか、ふうかの無様な感じを忠実に再現してたし(笑)。


(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

──この映画の大きなテーマは「叫び」だと思うんですが、阿部さんが「普通の声色に比べて『叫び』って実はヴァリエーションが少ない」と別のインタビューでおっしゃっていたのが印象的でした。それって、「叫び」が人間の最もプリミティブなところであり、声色などでコントロールできない部分だからなのかなと思ったんです。「叫び」は自分をさらけ出す行為に近いからこそ、ふうかは大きい声を出せなかったのかなと。

三木:そうなんですよ。「叫ぶ」ってもの凄くみっともない行為じゃないですか。裸になるのに近いというか。なので、阿部さんや吉岡さんが叫んでいる様子を撮影するというのは、その時の2人の「真実」をフィルムに焼きつけるということだと思ったんですよね。そういう次元まで、3人で突き進むことができたのは幸せだったなと思っています。

──ところで、阿部さんが「アベマリア」を歌うシーンがありますけど、あれって吹き替えではなく阿部さんが実際に歌っているのでしょうか。とても美しい声で感動しました。

阿部:そう! あれ実際に歌っているんですよ。違う人が歌っていると思われたら癪なので、是非ともそこは大きく書いておいてください!

三木:そこも、カナダでは大爆笑だったけどね(笑)。




『音量を上げろタコ!なに歌ってんのか全然わかんねぇんだよ!!』
10月12日(金)ロードショー

出演:阿部サダヲ 吉岡里帆
千葉雄大 麻生久美子 小峠英二(バイきんぐ) 片山友希 中村優子 池津祥子 森下能幸 岩松了
ふせえり 田中哲司 松尾スズキ
監督・脚本:三木聡(『俺俺』、「時効警察」シリーズ)
(C)2018「音量を上げろタコ!」製作委員会

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