映画&TV MOVIES,TV


映画『一命』|武士が命を絶つ理由

1110 ICHIMEI 05 映画『一命』|武士が命を絶つ理由 ©2011映画「一命」製作委員会

今年の5月、カンヌ国際映画祭でプレミア上映された『一命』。 時代劇としては初となる3D映像を駆使したこの作品は、10月15日より全国公開となる。 “切腹”という武士の死に様を描いた哀しい復讐劇……。 名役者たちの演技と洗練された映像美に圧倒される映画だ。

大名屋敷にふらりと現れた浪人が、軒先を借りて切腹をしたいと言い出す。そんな不穏な語り口で観客を物語に引き込んでいく三池崇史監督の新作『一命』は、1962年に『切腹』として映画化された小説『異聞浪人記』を再映画化したもの。思えば三池監督が初めて本格的な時代映画に挑戦した『十三人の刺客』は、63年に公開された同名映画のリメイクだったが、続けて古典的名作に挑戦する三池監督にサムライ魂を感じずにはいられない。しかも、今回は時代劇初の3D。『十三人の刺客』では50分にもおよぶ激しい立ち回りシーンを見せた三池監督のこと、さぞ派手に刀や槍が飛び出すのかと思いきや、期待は鮮やかに裏切られた。

物語は2人の語り手によって進められていく。まず1人目は大名屋敷を取り仕切る井伊家の家老、斎藤勘解由(役所広司)。斎藤は切腹志願の浪人、津雲半四郎(市川海老蔵)に、半四郎と同じように井伊家にやって来た若い浪人、千々岩求女(瑛太)の逸話を話す。この求女の切腹シーンが前半のヤマなのだが、これが目を背けたくなるような痛々しさ。しかも、求女に切腹を無理強いする井伊家の侍たちがまだ青年の面影を残していて、まるで学校の陰湿なイジメを見ているようでもあり、弱者に対して冷酷な若者たちの姿は不気味なくらい現代的だ。

1110 ICHIMEI 03 映画『一命』|武士が命を絶つ理由 ©2011映画「一命」製作委員会

後半、語り手が津雲半四郎へと変わると、半四郎と求女の意外な関係や秘められた過去が語られていく。そうやって立場がまったく違う2人、勘解由と半四郎の語りを通じて、理不尽な武士社会に翻弄される人々の怒りや悲しみが浮かび上がる本作は、まず言葉で斬り合う映画であり、〈動〉の『十三人の刺客』に比べると〈静〉の迫力に満ちている。さらにラストには、あっと驚く大立ち回りが用意されているが、そこで見せる海老蔵の身のこなしや眼力は、さすが歌舞伎界のプリンス。抑えた演技のなかに凛とした華を感じさせる。また歌舞伎的ともいえる簡潔な美しさが映画全体のトーンになっていて、3Dもアクションを派手に見せるためではなく、茶室や紅葉、降り積もる雪など、和の美しさを際立たせているのが印象的だ。坂本龍一が手掛けたスコアも、抑制されたストリングスの響きで映画に静かに寄り添っている。しかし、そうした静けさのなかにも、ふつふつと熱い感情がたぎっているのが三池節。三池崇史×市川海老蔵×坂本龍一と、今の日本を代表する3人のアーティストが揃い踏みした本作は、『命を懸けて守るべきものとは何か?』なんてことを語ることが絵空事になりつつある現代に、まっすぐに斬り込んでくる新たな古典だ。

1110 ICHIMEI 04 映画『一命』|武士が命を絶つ理由 ©2011映画「一命」製作委員会

『一命』予告編

Text by Yasuo Murao


COMMENT

facebook

twitter