藤原 洋 インタビュー
20世紀後半〜21世紀にかけて、アメリカで起きたデジタル情報革命を第三次産業革命と呼んでいる。その第三次産業革命を担ってきたインターネット社会のパイオニアのひとりが電子情報工学博士・藤原 洋。彼が次に提唱するのが第四次産業革命、すなわち環境エネルギー革命である。
——電子情報工学専門の藤原さんが自然環境エネルギー問題に取り組んでいるのは意外な気がします……。
「私が専門としてきたインターネットの本質は自律分散型であることと参加型であること。例えば、インターネット端末は各自が好きなものを所有し集中点がない。これが自律分散型。それからウィキペディアというのは、ひとりの学術権威が作ったわけでなく、インターネットに繋がる人全員の財産。これが参加型ということ。エネルギーもこうした構造を受け継ぐべきなのに、実態はその逆。電力会社による一極集中、非公開の文化だった。それをネット文化と同様に変革したいわけです」
——その立場から見た今回の福島原発の事故はどんな風に映りますか?
「まずはあってはならない事故が起きた。そして、これは起こるべくして起きた事故だということ。つまり、産・学・官の連携による人災です。今回の地震の規模は地球物理学的には想定内。それを原子力工学者は無視して、専門分野でもない津波を予想していた。サイエンスに忠実でなければならない工学が、原子力に関してはポリティクスに忠実だったというわけです。原子力の安全神話をつくってきたムーヴメントに浸っていたアカデミズムの責任は重い。そして、これからのアカデミズムは真実を伝えて行く必要性があります。メルトダウンの問題もそうです。彼らの言い分は、情報を不確かなままオープンにするとパニックになるというものでしたが、本来は、『不確かだ』ということを言って、オープンにするべきなんです」
——ドイツが2022年までに原子力発電所の全廃を決めました。日本はどうするべきでしょうか?
「日本は地震大国です。そういう土地での原発は全廃を前提に停めるべきです。なくす、停める、というとネガティヴに聞こえるが、そうではなくて、次のテクノロジーにシフトするという考え方が必要です。原子力から“再生可能なエネルギー=太陽光発電”にシフトすることを大前提のポリシーとして掲げることが、非常に大切だということです。そもそも、原発というのは、もう60年前の古い技術。テクノロジーの進化で言えば、その間、半導体という技術ができ、それが情報社会をつくってきたわけです。そしてエネルギー革命もこの半導体で起こりつつあります。太陽光電池は半導体ですから」
——そういう大きなヴィジョンに向かい、国が政策を切るべきだと?
「そうです。日本はこういう再生可能のエネルギー政策を考えなければいけない。ドイツはそれをやった。それがフィードインタリフ制度(*1)です。そのおかげで新産業が成長しました。景気が悪いと言って古い企業を守るのは逆で、新しい企業や新しい技術が発展するように国がバックアップする政策を採るべき。海外では新しいイノベーションがあると政治がそれを押しましたが、日本の政治は既得権益を保護してきた。今回の福島の失敗は、まさにそれ。新政権が悪いという問題じゃなくて、イノベーションを進める方に政策を打てるかどうかです。そこを直していけばいいわけです」
——従来のエネルギー政策で生計を立てていた方々もいますが……。
「歴史的に、産業革命が古い産業に関わっている人の雇用を奪うことを証明しています。でも、イノベーションの本質というのは人間を単純労働や危険な労働から解放するというもの。だから、一部の人の雇用を守るためにイノベーションを停めるのは本末転倒です。雇用を失った人を守るのは、テクノロジーの問題ではなくて社会福祉の問題です」
——電力会社はエネルギー革命をどう捉えるべきでしょうか?
「例えば、各自がソーラーパネルを付けるのに200万円掛かるとして、それを個人が負担するという考えがそもそもおかしい。社会が負担すればいい。電力会社が強制的に買い取る。それが保証されれば、そこに見合うローンがつく。政策と産業が一致して、ひとつのヴィジョンを共有する。電力会社がやるべきは太陽光は高いからダメではなく、将来、石油や石炭がなくなる時代を見据えて、『1キロワットあたり、42円で20年間、全量買い取ります』というような経営判断です。しかも太陽光パネルというのは半導体。これは量産がきき、ブレイクイーブンになる。一気にコストが下がる。これがグリットパリティ(*2)。来年、ドイツがこの状態を迎えます。大事なのは、現状、電力会社のネットワークになってしまっているエネルギー社会は、国民参加型のネットワークであるべきということです」
——太陽光パネルを付けようとしても首都圏の集合住宅だと勝手に設置できないなど難しいこともあります。
「首都圏の集合住宅の問題に対しては、ソーラー発電所をコミュニティで共有するという考え方をすればいいんです。これがCEMS(*3)。神奈川県が積極的に進めています」
——集中発電から各コミュニティへの分散ですね。
「はい。でも視野を広げる考え方もあります。砂漠に太陽光パネルをつくること。電気抵抗ゼロの直流送電ができればどこからでもエネルギーロスがゼロで、引っ張って来られる。地球上の砂漠を使えば、必ずどこかが昼間。沈まぬ太陽光発電ができる。地球規模でそういうことを研究することも大事です。あるいは宇宙太陽光発電。太陽光発電所を静止軌道の衛星につくる。大事なのは、太陽光は、毎日降り注いでいるということ。この降り注いでいるエネルギーをマグニチュードに換算するとM11・5。3・11の地震はM9・0です。大規模なエネルギーが毎日降り注いでいる。それを研究している人がいる。そういう興味や発想が死なないよう、未来を見ている研究者を自由にさせておく社会が必要です。音楽でも芸術でも同じ。いろんな発想の才能が自由に活躍できる社会をつくらないと未来はないですよ」
——日本の政治家がそうした一歩踏み出す決断をできるのでしょうか?
「政治家を選ぶのは私たちです。この間のチュニジアの政権交代を思い出してください。インターネットツールを使って集まった市民運動による政権交代です。インターネットとは、直接民主主義のインフラ。例えばエネルギー問題、『世界の発電ってどうなってるんだ?』ということをインターネットで公開議論すればいい。大事なことは、世界で何が起きていて、イノベーションの本質は何かを参加型で理解すること。インターネットはそれをやってきた。私は、それをエネルギー分野でもやってみたいと思っています」
Text by Joe Yokomizo Photographs by Osami Watanabe*1 固定価格買い取り制度。エネルギーの買い取り価格(タリフ)を法律で定める方式の助成制度である。地球温暖化への対策やエネルギー源の確保、環境汚染への対処などの一環として、主に再生可能エネルギーの普及拡大と価格低減の目的で用いられる。設備導入時に一定期間の助成水準が法的に保証されるほか、生産コストの変化や技術の発達段階に応じて助成水準を柔軟に調節できる制度である。適切に運用することにより、費用当たりの普及促進効果が最も高くなるとされる。世界50カ国以上で用いられ、再生可能エネルギーの助成政策として最も一般的な手法となっている。
*2 再生可能エネルギーによる発電コストが少なくとも既存の商用電力の価格(電力料金)と同等かそれ以下になる分岐点、もしくは境界となるコストや価格を指す。
*3 コミュニティ・エネルギー・マネジメントシステムの略。地域エネルギー管理システムのこと。
HIROSHI FUJIWARA
藤原 洋 ● 1954年、福岡県生まれ。京都大学理学部卒業(宇宙物理学専攻)、東京大学工学博士(電子情報工学)。米国ベル通信研究所訪問研究員を経て、96年、インターネット総合研究所設立。ITインフラを整備し、日本のデジタル情報革命を推進した中心人物。株式会社インターネット総合研究所 代表取締役所長。IRIグループ代表。株式会社ナノオプトニクスエナジー、株式会社ナノオプトメデイア代表取締役社長など。また慶応義塾大学環境情報学部特別招聘教授、SBI大学院大学副学長・教授。財団法人インターネット協会副理事長なども務める。






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