
2011年4月の神奈川県知事選では、「脱原発」を訴えて他候補を圧倒し当選。
就任後も「かながわソーラープロジェクト」構想を打ち出し、
イベント「太陽経済かながわ会議」などを通じて
日本のエネルギーシステムの転換をリードする神奈川県知事・黒岩祐治。
今日本中が注目する、エネルギー政策の旗手にインタヴューした。
——まずは、神奈川県の取り組むソーラープロジェクト(※1)について教えてください。
「県知事選を戦う時に掲げたのは、『4年で200万戸分のソーラーパネルを設置すること』です。そして、『無料で家にソーラーパネルをつけられる』とすれば太陽光発電がどんどん普及するだろう、というわけで、そう謳った。実際タダでつけられるのか?ということですが、ソーラーパネルを一戸建ての家に設置すると、平均的には200万円くらいかかる。そこで、今神奈川県の一部の銀行にはソーラーローンというのができたんですが、まず200万円のローンを組んでもらうわけです。そして、自分の家で余った電力を電力会社に買い取ってもらう『余剰電力買取制度』を利用すると、売電収入を含め、月に1万円、10年間で120万円くらいのメリットがある。あとは補助金制度で30万円弱補えるので、残りの50万円が自己負担となるわけですね。現在、発電したすべての電力を買い取ってもらえる『全量買取制度』を規定した、再生可能エネルギー特別措置法案(※2)が国会で審議されています(7月29日現在)。これが成立し、住宅についても現行の余剰買取から全量買取になれば、自己負担もなくなり、無料でソーラーパネルをつけられる流れができることになります」
——実際、「4年で200万戸分」構想は実現するのでしょうか?
「4年というのはなかなか短い期間ですから、すさまじく高いハードルで、大風呂敷だというのは僕も認めます。広い土地にばーんと大きなメガソーラーパネルを敷けばかなり枚数を稼げると思いますが、神奈川の場合、広大な土地がない。でもこの数字に挑戦する意味はあるんです。『4年で200万戸分』というのは、ある種の標語。いちばん大事なことは、200万戸分設置できたかどうかというよりも、太陽光発電だけでなく風力や地熱も使って、原発に依存しなくてもやっていけるような、エネルギーの体系を作ることですから。この神奈川でこういう生活を享受し続けられるのは、福島のみなさんにあれだけのリスクを負わせたうえでだった、と原発事故を通して気づいたわけだから。それでいいのか、ということです。自分たちで使うエネルギーを自分たちで作るというのは基本、けれど神奈川に原発は作れない。となったら、エネルギーの地産地消を考えるなかで、太陽光発電というのは一つの大きな方向じゃないですか、ということですよね」
——新しいエネルギーの体系作りに向けて、動きは出てきていますか?
「知事になって3カ月ですが、実感として本当に『エネルギー革命』が起きつつあるなと思います。震災と原発事故を機に、革命が動き始めたんです。今はテレビコマーシャルでも家電量販店でも、『ソーラーパネルをつけましょう』とやっていますよね。一気にビジネスが乗ってきたんです。民間の力が入ってこなければ、革命なんてできるわけないですから。実際神奈川県の取り組みにも、いろんなところから協力の手が挙がっているし、金銭面でも技術面でも、様々なアイデアや最先端の情報が持ち込まれています。太陽光発電の電力をためる蓄電池とか、工場の廃熱を使った発電システムとかね。革命が起こる時は、動き始めながら物事がどんどん新しく変わってくる。だから、今の時点にある技術やコストだけをベースに実現の可能性云々を論じるだけでなく、行動することが大切なんです」
——実現の可能性云々はいったんおいて、とにかく“標語”を打ち出して動き始めることが大事だと?
「そういうことです。日本の過去の歴史を見ても、『所得を倍増するぞ!』と掲げることで、(※3)『倍になる』というイメージができて、結果いろんなものが動き始める。所得が本当にきっちり倍になったのか、ということは別問題なんです。200万戸分というのは、つまり『とってもたくさん』ということ。ただ『とってもたくさん』という言葉を使っても強いメッセージにはならないから、具体性と本気度を出した言葉を掲げたんです。実際、横浜銀行や神奈川銀行などが即座に低金利のソーラーローンを作ってくれたのも、銀行の会長曰く、『知事たる人が4年で200万戸分と言ったからだ』と。『普及させる』と宣言するだけでは、銀行はそんなにすぐ動きませんよ」
——民間の動きはともかく、原発推進派を公言する石原都知事が原発事故後に四選を果たしたという現状もあり、政界レベルではまだまだ道のりが遠いように感じます。
「原発推進か、容認か、ということでいえば、私だって容認なんですよ。反原発、つまり原発を全部やめてしまえ、全部太陽光発電でやろうとはひと言も言っていないんです。電力なしの生活をすることはできない。だからこれまで以上に厳しい安全基準は必要だろうけど、原子力発電と付き合っていかなきゃいけない部分も残しながら、違ったエネルギーの体系をできるだけ早く作っていこうとしているんです。これを原発推進/容認と言うか脱原発と言うかは、言い方次第なんです」
——「反」ではなく「脱」と謳うことで、推進派政治家への説得の突破口も見えてくるわけですね。
「原発推進派から、『再生可能エネルギーで必要な電力を全部賄えるのか』という反論も受けるんですが、それもおかしいんですよ。全部賄えるとは言っていなくて、普及の動きを加速させることが大事だと言っているだけで。その動きの中で、原子力エネルギーとのバランスも見えてくるんじゃないかと思います」
——菅総理も、首相の座と引き換えにする勢いで、再生可能エネルギー法案を通そうとしていますよね!
「菅さんが僕と同じことを言っていることで、逆になんか政局の色がついちゃって。再生可能エネルギーを政局に使わないでほしいね。ありがた迷惑だ(笑)。ともかく法案のキーとなる『全量買取制度』が通らず、住宅については余剰買取が残るとしても、たとえばいくつかの家をひとつのグループにまとめ、実質的には全量買取と同じ仕組みにするような工夫もできる。そういう知恵はいくらでもあって、これからいくらでも新しいことを考える余地がある。いずれにせよこの法案が通れば、再生可能エネルギー普及への動きはますます加速していくはずです」
※1 「かながわソーラープロジェクト」。原子力エネルギーへの依存を低減するとともに、再生可能エネルギーの推進を図り、太陽光発電の大規模普及を目指す取り組み。
※2 再生可能エネルギー源を使って発電された電気について、国が定める一定の期間・価格で電気事業者が買い取ることを義務づけるもの。現行の「余剰電力のみ」でなく「全量買取」の義務を規定しており、法案が成立してこれが義務づけられれば、発電コストや消費分の電気料金よりも売電価格が高く設定されているため、再生可能エネルギー発電が普及するとみられる。
※3 1960年、池田内閣が国民所得倍増計画を打ち出した。以降、経済は急成長し、国民一人当たりの実質所得はわずか7年で倍増。
YUJI KUROIWA
黒岩祐治 ● 1954年、兵庫県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。80年、フジテレビジョン入社。報道記者となり、ディレクターを経て『FNNスーパータイム』や『報道2001』のキャスターを務める。救急救命士誕生に結びついた救急医療キャンペーン(89年〜91年)など医療分野の企画を手掛け、放送文化基金賞や民間放送連盟賞を受賞。21年半のキャスター生活の後フジテレビを退社、国際医療福祉大学大学院教授に転身するも、「脱原発」を掲げて選挙戦に出馬。2011年4月、神奈川県知事に就任。座右の銘は「愚直」。
Text by Joe Yokomizo
Photographs by Osami Watanabe






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